1252人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 金髪男
「おい。」
乱暴に声を掛けられる。周りに人が居れば俺は無視をしていた。聞かぬふりをしながら。しかし、今現在タイミングの悪い事に人は俺と唐突に俺に声を掛けた彼しかおらず、無視する言い訳を作るには苦しい状況だった。
「…何だ?」
振り返って見てみると長身の男子生徒だった。そして、ガタイが良い。何よりの特徴は少し長めの金髪だ。そして目付きが悪い。その目で更に眉間に皺を寄せ、俺を睨んでいる。
「お前か、小野寺 勇は。」
名前を呼ばれたが、俺は彼を全く知らない。こんなに目立つ金髪なんて一度見たら忘れられない。
「あぁ。」
肯定した途端に彼からの敵対心がさらに強く俺に向けられたのが分かった。歯をギリッと鳴らし、俺の事を更に鋭く睨んでいる。
「…お前は猪塚 陽太の事をどう思ってる。」
低い声で唸るように彼は尋ねた。返答次第では俺を殺しそうな雰囲気である。
「友人だ。」
どんな答えでも関係無かったのかもしれない。彼は嫌悪感を露にした。最初から嫌悪感は滲み出ていたのだ。顔さえも知らない彼からここまで嫌われる理由は分からないが、猪塚が大きく関係している事は間違えないだろう。
「猪塚には今後一切近寄るな。」
彼はまだ俺を睨み続けている。
何が問題だ。猪塚を通して柊の理由を探している事か。いや、そんな事彼が知るはずも無い。
猪塚の好意を弄んでいるように見えるのだろうか。
だが、いつ、その事を知ったのだろう。
あの時あの場にいたのか?
猪塚に告白された時、俺は『タイミングが良い』、そう思った。しかし、実際は〝そんなことは無く〟近くの教室に彼はいたのかもしれない。
と、なると、可能性があるとしたら後者である。
そして、何故俺に敵意が剥き出しなのか、それはもう一択しかないのかもしれない。
「猪塚が好きなんだな。」
「はぁ!?」
俺の発言に彼の顔はボンッと赤くなった。敵意を向けていたその表情は一気に恥に塗れた。はくはくと動かす口は「何故、分かった。」とでも言いたげである。
柊の忠告は「猪塚には気を付けろ」だった。その理由が彼が俺に告白してきた事なのだとしたら、これは良い機会なのかもしれない。
「手伝う。」
「お前何言って…」
「猪塚の好意の矛先を変えるんだ。」
廊下の先、雑にイエローテープの貼られている屋上への入口前に俺らは腰を掛けた。微妙な距離感を保ちながら。
一段下に腰を掛けている彼、仁山真大は疑念の目をこちらに向けている。
「…で、お前が手伝うというのはどーゆー事だ。」
「言葉通りだ。俺は猪塚を友人としか見ていない。お前は猪塚が好きなのだから、悪い話では無いはずだ。」
仁山は目つきの悪い視線を俺に向けたままである。矢張り、俺が信じられないらしい。何故こうも信頼が無いのか。
「お前が協力するとは思えねぇ。」
「何故だ?」
「お前みたいなやつの言葉誰が信じると思ってんだよ。」
俺みたいなやつ?
その言葉が引っ掛かり俺は首を傾げる。仁山はもう俺の方を向いてはいなかった。ただ、階段の下段に目線を下げている。
「…信じるか信じないかは仁山次第だが、俺が猪塚と付き合う事で猪塚に対しても俺に対しても仁山に対してもメリットなどない。俺としてはこの提案に乗ってくれると助かるのだが。」
暫くして仁山から舌打ちが聞こえた。襟足部分を無造作に指の腹で掻き、盛大に溜息を零した。
「…わぁったよ。お前の提案に一先ずはのってやる。ただ、お前を信用した訳じゃねぇ。」
そうぶっきらぼうに言い残すと仁山はこちらを一度も見ずに去っていった。靴を擦るような足音が段々と遠ざかっていった。
最初のコメントを投稿しよう!