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「遊園地行こうよ。今週末。」
ペアチケットを二枚持ちながら、彼、猪塚は俺に誘いかけて来た。勿論、顔はいつものにこにこ顔である。猪塚が俺に話しかけた事が相当意外なのだろう。周囲の男子達は信じられないという顔でコソコソと話をしている。それが少々気障りで、猪塚の後ろに見える生徒達から目を逸らす。
「勇は行かないよ。」
その声と共にするりと俺の首元に腕が周り、頭上に何かの重みが乗る。柊の頭だった。そのせいか猪塚は顔を少し顰めた。しかし、それは一瞬で直ぐにいつもの様な笑みを見せた。
「俺は勇君に聞いてるんだけどなぁ?」
「行くの?」
行きたいか行きたくないかと言われたら面倒臭そうなので行きたくは無い。しかし、
「…四人、行けるのか?」
俺がそう聞くと「そうだよ〜」と猪塚は元気に答えた。
そうなると、俺、猪塚、柊、あと一人に彼を選べば、作戦を進められるのかもしれない。
「…じゃあ、仁山 真大を誘ってくれ。」
猪塚はきょとんとこちらを見ていたが、大して驚いた様子が無かった。しかし、柊は俺の廻していた腕をピタリと固まらせた。表情は見えていないが、動揺しているのはよく伝わる。
「あれ?真ちゃんの事知ってるの?」
真ちゃん、そう呼ぶからに高校からの付き合いでは無さそうだ。仁山も何か拗らせている様だったし、中学の時からの知り合いなのかもしれない。
「昨日話した。」
へぇ〜、と猪塚は相槌を打っていたが、柊は黙り込んでいる。仁山の名前が出た途端こうなってしまった。つまり、俺が昨日彼に話した通り、猪塚と彼をくっつける事が出来れば、柊の理由が明確になるのかもしれない。そんな期待を抱いた。
そして当日。
来たのは、動物園と遊園地が融合しているテーマパークである。この学校から一番近くにある大きなパークで、案外敷地は広いらしい。猪塚や仁山は「久しぶりだ。」「小学生以来だ。」などと声を漏らしながら周りをぐるりと見回している。そんな2人を横目で見ながら、あぁ、そういえば来た事が無かったなと園内の奥をじっと見つめた。
「あれ、勇もしかして初めてだっけ?」
「あぁ。」
一瞬、瞳の奥が揺れた様な気がしたが、直ぐに彼はニコリと笑い、俺に問いかけてきた。
「どう?初めて来た感想としては。」
「騒がしい。人が多い。」
「そっか、でも。」
柊がそう言いながら、俺の目の前に立つ。
「いつもより楽しそうだ。」
そう言った彼の表情がふわりと風景に溶け込んで眩しくて、俺は二度瞬きをした。
楽しそう、楽しそう、か。そうやって心の中で反芻して噛み砕こうとしたのだが、出来ず、俺は首を傾げた。そんな俺を見て柊は見透かしたように笑う。
「勇は疎いね。」
「そうか?」
「そうだよ。」
柊が呆れたように頷いた所で少し先を歩いていた猪塚たちに名前を呼ばれた。
「勇くーん、あと柊君も。早く乗ろ〜!!」
猪塚は楽しそうに笑顔を見せながらこちらを手招いている。その後ろにいる仁山も仏頂面ではあるが、何やらソワソワしている所を見ると早く乗りたいのかもしれない。
「勇、行こ。」
そう言った柊に手を引かれ、そのまま俺は彼らの元へと駆けた。
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