マリー

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 庭に出て、君の背中に忍び寄る。君は花の香りを嗅いでいる。ちょいちょいとその短くした橙の髪に触れてやると、ようやく君が振り返る。 「よく咲いてるよ、ほら」  他のLCは絶対にしない締りのない笑顔。天真爛漫な少女のようだ、君は僕のつくった花壇に埋もれて、水色の病衣を揺らしてみせた。君の髪と同じ色の陽気な花が、その動きにつられて踊る。 「この花たちは君のために咲いているんだ」 「知ってる!」  辺りには青っぽい健康的な香りがたちこめている。僕は花の名前をやはり思い出せない事実に顔を曇らせてしまう。頬が引きつる。早くこんな所から脱け出して、僕らの名前を、花たちの咲く意味を知りたい。 「ねえ、これから三日もしないうちに」 「リブの涙が流れるんだろう?」  忌々しいシステムは僕らに一つだけ、ある名前を知る権限を与えた。  リブの目。  それは見上げた先にあるもの。常に僕らを見つめる巨大な目。真っ白な瞳孔を持ち、箱庭の壁に張り付く。向こう側の世界にはあるらしい光の代わり。
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