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夕子は安倍に促され、ベッドサイドに腰掛けた。固いクッションが夕子の腰を受け止める。
「あの……どんな感じですか。ラブホテルの中って……」
「えっと、シンプルですが、かなり広いワンルームという感じです。ここのベッドから見て十二時の方向の右手には革張りのソファーのある応接セットと大型の液晶テレビがあります。九時の方向にガラス張りのバスルームがあって……この部屋の天井は鏡張りになっています……」
九時や三時とは方向を時計に見立てた表現で、十二時が正面、右側が三時になる。夕子は頭に部屋を思い描いた。
「鏡の天井とガラスのお風呂……ですか?」
夕子が天井を仰いだ。手のひらで自分の頬を包む。
固いクッションのバネがフワリと揺れる。夕子の身体は安倍の声がする方に少し傾いた。
耳を澄ませる。静かなエアコンのモータの音に安倍と夕子が呼吸が交じる。
「安倍さん、少し寒いです……」
「大丈夫ですか。少し濡れてしまったので……」
手のひらが温かい安倍の手に包まれる。安倍の体温が手のひらに広がった。夕子の手を柔らかく擦る。
「立花さん……」
背をスッと引かれ、安倍の筋肉質の胸に抱き留められた。トニックシャンプーの匂いに包まれる。
「あ……」
苦しいくらいに鼓動が速い。夕子は安倍の胸に耳を寄せた。
安倍の力強い拍動が聞こえる。
「聞こえますよ。安倍さんの心臓の音……」
安倍の腕が強く夕子を引き寄せる。
「立花さん……」
「ハイ……」
――きゃっ……。
前髪がフワリと上がった。額に安倍の柔らかい唇が落ちる。
首をすくめ、安倍の唇を待つように見上げた。唇が冷たく柔らかい安倍の唇に包まれる。唇の先が啄まれる。身体中に鳥肌が立ったのではないかと思うくらいにゾクリと震えた。
身体の奥から何かが溢れ出すのが分かる。全身の神経が剥き出しになったようだった。
「幸せです。安倍さん……。私……」
チュ……。
目蓋に安倍の唇を感じ、すぐに夕子の唇を啄み始める。口腔に潜り込んだネットリとしたものが夕子の舌に絡みついた。夕子もそれに答える。
身体から力が抜けた。
「ああ……」
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