17人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
エピローグ
始発電車が走り始めるころ、二人はホテルを後にした。夕子の身体は安倍と繋がっていた場所に少し痛さと、安倍の感じが残っている。
「雨、止みましたね」
昼間とは違い、透き通るような空気の匂いがした。バイクの音があちらこちらと走り回っている。
「ええ、東の空が少し明るくなってきましたよ。今日は晴れですよ」
「こんなに朝早くお散歩するなんて気持ちいいですね」
夕子は大きく息を吸い込んだ。
二人の間に沈黙が続いた。
「立花さん、あの……」
「ハイ……?」
「僕と一緒になってもらえませんか?」
真っ直ぐな安倍の声だった。
「嬉しい……。でも、私は目が……」
結婚は諦めなければ、と誰から言われた訳ではなく夕子自身、子ども頃からそう思っていた。
「立花さんの目は個性です。顔カタチがみんな違うように……それだけです。立花さんにはもっといいところがあります」
「いいところ?」
「ほら、立花さんはこうして僕を元気付けてくれてます。だから、僕も生涯、立花さん……君の光になります。だから、……」
夕子は安倍の胸に包まれた。涙が溢れる。
「ハイ……安倍さん、…………よろしくお願いします」
:
それから半年後、夕子と安倍はいつもの駅の近くにある小さなチャペルにいた。
「ほら、オーナー、夕子さんのネイルとてもキレイでしょ?」
石鹸の匂いがして、ふう、と指先に息を感じた。
「夕子、このドレス、似合うわよ。私のお下がりだけどね」
夕子の母親の笑う声が聞こえた。
「ほら、神父さんが来る前に記念写真撮ってよ」と言いながらトニックシャンプーの匂いが夕子の手を取る。
「みんな!ハイ、チーズ……」
夕子の大きな声がチャペルで響いた。
完
最初のコメントを投稿しよう!