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ロータリー
毎週月曜日に安倍と会うことになっていた。遊園地やカラオケのように、夕子が一人で行けなかった場所へ行くことが出来た。
髪を切ってから二ヶ月だ。しかし、次のステップはまだ訪れていなかった。
:
十月のある月曜日。その日も安倍と会っていた。遠出をしたせいか、夜遅くいつもの駅に戻った。
安倍の車は静かに止まった。
「駅のロータリーです。すみません……少し遅くなってしまいました」
夕子は指触腕時計の文字盤を指先で確かめた。時刻は午後十時二十分を指している。安倍と過ごした時間で一番遅い時間だ。
――遅くなっちゃった。
そこは普段の雑踏が想像できないくらいに静かだった。
「楽しかったです。私、時間を忘れていました」と、夕子は笑って見せた。
「立花さんの家まで送ります。だけど、この季節ハロウィンの飾りがキレイです」
「どんな感じですか? ハロウィンの飾りって……」
「ええ、ここのは一面紫色の電飾の中にカボチャの茶色が散りばめてあって、キラキラと幻想的です」
頭のキャンバスにそのイメージを描いた。夕子は子供のときから耳で聞いた事柄を想像するのが好きだった。
「私、少し車から降りてもいいですか?」
しばらくすると車のドアが静かに開いた。子供のころ、母親が読んでくれた童話の中のカボチャの馬車から降りるようだ。
夕子は大きく深呼吸した。冷たい風が髪を撫でる。昼間のような騒々しさはなかった。
「立花さん……」
安倍の声が自分に向いたような感じがした。トニックシャンプーの匂いが夕子の左側にあった。
その手が夕子の手の甲に触れた。
夕子の手のひらを冷たい手のひらが包んだ。
――安倍さん。
夕子がその手を握り返す。大きな手のひらを……。左腕に筋肉質の腕が当たる。
トニックシャンプーの匂いが近づいた。
「……安心します。安倍さんに手をギュッとしてもらうと……」
胸が高鳴った。
「…………立花さん…………」
――えっ……?
「………………はい……」
夕子の唇が、柔らかく温かい物に覆われる。
夕子は目を固く閉じた。息が苦しい。唇の先が啄まれる。
「あ……安倍さん……あ……周りに誰かいませんか?」
テロンとした温かい物が夕子の唇に入り込む。ネットリとしたそれが夕子の舌先と戯れる。安倍の舌先に夕子の口腔を舐め干されるかのようだ。その都度、生温い唾液が送り込まれる。
「ああ、立花さん、好きです」
「んくっ、んくっ、嬉しい……私も大好きです。安倍さん」
再び安倍の舌先が夕子の口腔を探り始めた。熱いものが溢れそうな感覚に戸惑っていた。
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