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第2話
「鶴見恭吾副店長? ドリンカーのコーヒー替えました?」
そう聞いてくるのはアルバイトの菊池さんだ。
「ちゃんとしてください」
諭すようにやり方を丁寧に教えてくれるこの店3年目の大学生のアルバイトの女の子だ。
アルバイトにやり方を教わっている情けない俺だった。しかしこの店に来てまだ2ヶ月目であるが副店長なのだ。まぁ仕方も無いことだと言い聞かせる。
この店には店長以外社員は俺ともう一人以外いないわけだからだ。朝の朝食ラッシュが終わった後のドリンカー交換は手際との勝負。しかし俺は今日も眠気との戦いで仕事に気合が入っていなかった。
一昨日、神戸からの帰り道、偶然出くわした女性と男二人組。その男たち二人に追いかけられていた女性を助けたせいもあり、顔面に傷が残っている。
アルバイト店員には
「どこでそんな傷をつけたの? 転んだの?」
アホか扱いにされてもノーテンキに仕事をこなす。
朝十時三十分も回った頃、一人の女性客がサングラスをかけて店に入店した。
「いらっしゃいませ………」
柿色のワンピースドレスっぽいそ容姿にスカーフ。そしてサングラスに頭にはカンカン帽。この暑い時期にスカーフなどしてくるそのアホ女。その風貌を見て直ぐにわかった。
一昨日、男二人から助けた女だった。
いきなりツカツカとヒールを鳴らし、カウンター越しにアルバイト店員に注文をしている最中、サングラスを目元から少しずらし、俺を睨みつけるような仕草だ。
それを確認し終わるとすぐさまアルバイト店員からエスプレッソの紙コップをトレイに乗せて、席に向かう途中俺に手を振った。
それを見たアルバイト店員の菊池さんが声をかけてきた。
「お知り合いですか? 凄く綺麗な方ですけど……副店長さん?」
ちょっと嬉しそうな目つきで俺を嗜める。俺は白々しく
「いやぁ?知らんで?」
返すが、白々しすぎて直ぐに知り合いだということがバレていた。
菊池さんが奥のキッチンに向かって手で合図を送り、男性スタッフの河野くんと女性スタッフの森さんを呼びつける。そして……。
マジマジとカウンター越しのテーブルに座るその女を皆んなして観察する。俺はキッチンへと消えようとした時、菊池さんに呼び止められた。
「彼女、副店長を呼んでるみたいですよ?」
「はぁ?」
振り返るとカウンター越し近くのテーブル席に座るその女は左手にカフェを持ち、右手の人差し指で俺に来いと合図を送っているのが見えた。
「ほらね?」
俺は頭をかき、そのまま知らん顔してキッチンに消えようとした。すると突然後ろから俺の肩を叩く菊池さんがいる。
「副店長」
呼ばれた瞬間だった。後ろからその女の声がする。
「それは無いんじゃ無い? やっと見つけたのに。お礼ぐらい言わせてよね?」
カウンター越しに腰に手をあて、仁王立ちをして少々いけ好かない表情の女だった。
やれやれ……。助けてあげたのに、その言いようもないんとちゃうかと思い思い、振り返りその女に近づくとそれはいきなりだった。女が周りの皆んなに聞こえるように甘ったるい声で言いのけた。
「ダーリン?」
「はぁ?……」
目が点になった瞬間だった。
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