第25話

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第25話

 勝田店長から突然言い渡された。 「三隅さん、しばらく休むって」  百合からは何も聞いていない。というよりも突然すぎた。俺が百合とのデート中に連れ去られてから、数週間後の出来事だった。  解放された時、ちょっと口を男の拳で切っていたが、それぐらいの軽い怪我だった。百合は最初は怯えて「助かって良かった」と漏らしていた。  そもそも助かったのも、朝店に行くと宛名がない手紙ががあったからだと店長が言っていた。警察に届けを出そうとも言われたが、俺は出さずにいた。それがこんな事件になるとは思ってもみなかった。  俺は休憩時間に百合にLINEを入れた。だがそのLINE自体、仕事が終わろうが返事はなかった。  気になる。あの高津が現れた一件以来。俺たちの仲は一気に縮まった。その夜、俺は百合を抱いた。彼女の住むマンションで一夜を明かした。抱きしめた温もり。そして彼女がどうして苦しんでいるのかも確認できた。 「気をつけてね。あの高津って人、何するか判らないから」 「大丈夫。任せなよ。一応これでも男だし」 「これで助けられたの三回目、もう単なるお礼だけじゃ済まされないね」 「何言ってんの。俺は今日確信した。百合が大事なんやとね」 「ありがとう……」  夜に語っていた。  高津が父親の会社を乗っ取るために百合を利用しようとしていること。そしてその契約に百合との婚約があること。高津はモデルである百合のファンであることや、高津にはまた違う一面があり、隠された闇があることなどの話をされた。  だから、高津と対峙して大丈夫かと百合は何度も不安なことを言っていた。それが的中したからなのか、突然店を休むとの連絡だ。  しかも俺には何の相談もない。  まぁ、元々自分の道は自分で決めるところがあったから不思議でないが、あまりにも唐突すぎた。  仕事終わりに携帯を鳴らしては見たが、留守電へと何度も切り替わった。 「突然の報告で心配やから、連絡ちょうだい」  メッセージを残すことしかできずにいた。気になった俺は、百合のマンションへと足を運んだが、居る気配はなかった。  俺は、やはり俺が連れ去られたことと何か関係あるのではと、高津の会社に連絡を入れようとも思ったが、そんな唐突な話を受け入れるわけでもなく辞めた。  足取りは、百合とよく歩いた鴨川へと伸びていた。あの街灯の下のベンチでもしかしたら悩んで座って居るのかもしれないと俺は足を運んだ。だが、そのベンチには違うカップルが座っていただけだった。  まぁいい。しばらくと店長が言っていたから、不安をよそに俺は家路に着いた。帰っても鳴らない携帯。LINEには既読も付いていない。また電話をかけたが、また留守電へと切り替わった。 「心配してる。連絡ください」  またそう端的にメッセージを残し電話を切った。なかなかその日は寝付けず、結局朝を迎えた。  朝早く出勤した。今日は珍しく勝田店長が一番乗りで来ていた。 「あれ、おはよう。えらく早いね」 「あぁ、店長も、どうしたんですか?」 「うん。予算のことで、本社寄る前にちょっとね」 「そうですか」 「あっそうだ。鶴見くん、昨日寝れた?」 「えっ、なんでですか」 「目赤いよ。それにボケっとしちゃって。三隅さんと会えた?」 「……あ、ええ。連絡つかなくて」 「そっか。まぁ気にしないことだよ。しばらく休むってだけだろうし」 「そうですか」 「そんなに心配?」 「ええ、まあ。色々ありそうだなって思うから」 「彼女、これから伊丹空港だってさ」 「えっ!? なんで店長が、それを」 「あぁ、内緒にしておいてって、言われたんだけどね? 絶対内緒だよ? 僕が言ったと言わないでよね? 今ならまだ会えると思うけど」 「店長……。その口ぶり、なんか事情知ってます? なら、教えてもらえません?」 「あのさぁ、鶴見くん。行きゃーいいじゃん。伊丹って言ったよ僕」 「………」 「ハァ……手がかかるお子ちゃまだね?」 「ありがとうございます。店長」  俺は店を飛び出した。国道沿い、朝の通勤ラッシュにはまだ早い時間帯。タクシーを拾おうとしたが、なかなかやって来ず、河原町駅に向かう。駅から伊丹まで約1時間。気持ちばかり焦って電車がもっと高速で移動しないものと苛立ちを隠せずにいた。  勝田店長からメールが入った。 (彼女、九時丁度の便で東京みたい。早く行けよ)  南茨木からモノレールに乗り伊丹へと到着する。空港ロビー入り口付近、時刻は九時を回ろうとしていた。ゲートはとっくにしまっていた。 「お客様どうされましたか?」  スタッフが訪ねてくる。その時場内アナウンスが流れた。 「鶴見恭吾様。居られましたら、総合案内までお越しください」
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