第30話【百合編】

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第30話【百合編】

 昨日はシャワー浴びた後、スマホの電源を切った。  ベッドに横たわり、自問自答の時間を過ごした。すぐに自宅を出て父の元へ行かなかったのは、これまでの自分の決意が馬鹿らしく思えたから。その癖、恭吾を無視したのは、自分がかわいいから。  私はわがままだ。部屋で過ごし、眠れずに朝を迎えた。  流石に今日東京に行かなければ、勝田店長に言った意味もなくなると思い、重い腰をあげて空港へと向かおうとした。スマホで電車の時間を確認しようと電源を入れたら、恭吾からのメッセージの嵐。それだけ心配しているんだと思うと彼に嘘をついてまで、東京に行く気持ちも削がれそうになった。  だから、またわがままな私が顔を出した。またもや早朝に勝田店長にメールを入れる私がいた。ダメだと思ったけど、送信ボタンを押した後だった。  電車に揺られ、伊丹空港ロビーに到着。当日便で搭乗券を買い、しばし空を見上げた。勝田店長からメールが入った。 (彼、今そっちに向かったよ)  私は勝手だ。人を振り回す癖がある事は自分でもわかっていた。だけどもうどうしようもなかった。だからお土産屋さんでレターセットを見た時思わず買ってしまった。そして無振り書きで、恭吾にメッセージを残した。根性のお別れのメッセージなんて大それたものではない。  これは自分を戒めるため。そして父の元へ向かう決意の表れ。だけど恭吾が恋しい。こんな空港まで私を心配して来てくれる。これほど嬉しいことは無い。だけど……。私はわがままだった。  総合案内に手紙を渡し、私はロビーから搭乗口が見える場所で恭吾を見つめるだけだった。もし私を探してくれれば、搭乗口を超えてくれれば私は彼の元へ駆け寄り一緒に東京へ連れて行く。  だけど私との別れを感慨に耽るなら、恭吾には私は荷が重すぎると、私は一人で父と対峙するんだと決意を固めた。ロビーの陰から私はずっと恭吾の行動を見ていた。恭吾を呼ぶ場内アナウンス。手紙を受け取った恭吾は、空を見上げたまま立ちすくんでいた。だから私は決意した。さようなら、恭吾。今までありがとう。  搭乗した機内で私はずっと窓の外を眺めていた。  成田に着くと母の携帯に連絡を入れる。 「迷いは取れた?」と母の声。  待ち合わせの東京駅で母と落ち合いタクシーに乗る。 「お父さん、胃潰瘍だって、少しのあいだ入院」 「…そう」  私は小さく答えることしか出来ずにいた。
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