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第36話
百合を連れ戻そうと計画を立てて実行した。だが、結局百合は自分の意思で京都に戻るのをやめた。
「必ず戻るから!」その言葉を信じていた。
だが、あれから半年も経とうとしていた。
季節は6月に入ろうとしていた。俺はあいからわずな毎日を送っていた。
朝、ランソワールに出勤すると店長に拍手で迎えられた。
「ど、どうしたんです?」
「君、昇格だよ?」
「えっ!?」
「おめでとう。これから本部に行ってきな。驚きだから」
大阪の本部に行く。本部に入るやいなや、みんなが立ち上がり拍手をする。何が起こっているんだと思って、本部長のところへ挨拶に行くと、本部長も立ち上がる。
「栄転おめでとう。昇格。来月から今度できる新店の店長をやってもらう。気張れよ」
「私がですか?」
「ああ、君以外おらんからな」
店長はみんなハードワークだとは聞いていた。新店の店長とあれば気合いも入った。だが、その気合いは、違うようへ向けられようとしていた。京都四条店に戻ると、勝田店長が深刻な顔をしていた。
「どうされたんですか? 店長」
「これ見てみな……」
渡されたのは勝田店長宛の手紙だ。中には招待状らしきカードが数枚入っている。手紙の文章を読んで驚きを隠せなかった。
(私、高津義昭と三隅百合は、六月二十三日結婚する旨をご報告いたします。つきましては、パーティの招待状を送ります)
「な、なんや、これ」
「そうだろう? いきなりこれだもん。三隅さんから何も連絡ないの?」
「ないですよ。こんな、こんなことって……」
気合いが入ったのも束の間。俺は地獄に堕とされた。出会ってから一年という月日はあっという間だ。
「いなくなってからもう半年か」
俺は帰りの電車を惚けながら待っていた午後九時を回る頃、LINEが一通スマートフォンに舞い込んだ。
yuri:今度会えない?
そのLINEを見た時、スマートフォンを投げ捨ててやろうかと思ったが、グッと気持ちを抑えて返事を出した。
恭吾:今更、何?
その返事にすぐに既読が付き、すぐに返事がくる。
yuri:怒ってるのは分かってるでも、会って話がしたいの
何を今更と思い続けた。
恭吾:言いたいことがあるなら、LINEでどうぞ。
もう終わった二人の間に何を話すことがあるのだろうと俺はそう送った。すると次のメッセージで俺は我に返った。
yuri:助けて欲しい
そのメッセージを見た瞬間、無料通話のボタンを押していた。
「百合。何があった?」
「恭吾……。今少しだけなら話せる。私もう嫌なの」
「わかってる。高津やろ!」
「うん、あの人もだけど、お父様も」
「どうしたんだ。半年も連絡くれないで。俺はずっと連絡待ってたのに、突然店に結婚式の招待状が届いて。もう諦めてた」
「違う。あれはあなたの元へ戻ろうとしたら、脅されたの」
「脅された? 何があったんや」
「詳しくは手紙を送ったわ。数日で届くから。あっ高津が帰って来た。ごめんまたね。お願いよ。助けて欲しいのじゃあ」
百合は助けて欲しいと通話を切った。百合の身に何があったのかと心配した。その夜、俺は眠れずにいた。朝、店に行くと百合から手紙が届いていた。その手紙にはメッセージとともにある物が入っていた。
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