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職業選択の自由
この街は日本でも屈指のおばさんライセンス合格率が高い街である。おばさんは職業として免許制になり、OBSN(おばさん)国家試験に合格しないとおばさんを名乗る事が許可されていない。
おばさん国家試験の話をする前に、ギャル認定試験の話をせねばなるまい。事の発端は、ふと気づけばギャルを見かけなくなり、このままでは絶滅してしまうと危機感を抱いたある団体が
「ギャルを職業として認め、特殊技能を持つ者として認定すべきだ!」
という活動を起こした。
ギャル達も「そうだそうだ」と一緒に活動に参加し、試験的にギャルを職業として認定を行う事となった。認定されたギャルは、もちろん国からギャル補助金が出るのだが、ギャルを続けるには維持費がかかり、補助金を貰ってもメイクや服装に消えていった。
「私達は好きな時にギャルになり、好きな時にギャルから卒業する!」
と今度はギャル達がストライキを起こし、ギャルという仕事をしなくなった。
この時問題だったのは、認定試験が毎年行われるという点だった。合格点に達していれば全員合格なのだが、試験官の中に
「認定式になったからにはしっかり判定せねば」
と使命感の強い人がいて、筆記試験と実技試験の合格ラインを九十点以上とした。受験者はギャル認定対策赤本や実践メイク塾など試験対策にあけくれた。
いざ実施してみると、合格者は予想よりも随分少なかった。一年目は合格しても、三年目まで続けて合格出来るギャルが数人なのだ。
終わらない過酷な選抜試験。
ギャルの成り手は、減るスピードが緩やかになっただけで増えはしなかった。
これだけの厳しい採点基準をぶれずに行ってこられたのは、試験官の中にだいぶん合格が危なくなってきた五年目の現役玄人ギャルがいたからである。
「合格したら生活には困らないし~。やっぱ手に職はつけておきたいというか~」
「わかる~。それにうちら絶滅危惧種みたいなものだから、色々わがままも効いてもらえて、お姫様みたいに扱ってもらえそう~」
まだこんな古い考え方の受験者がいるのかと玄人ギャルは頭がクラクラした。
国がタダでお金をくれるわけがない事を国民はいつ理解するのか。
徴収した税金をギャルに渡す事によって経済を回し、なにかしらの税金で再び徴収する無限の自転車操業だ。絶滅危惧種という事は保護という名前の監視下に置かれる。手に職とか、お姫様のように扱って貰えるとか、そんな悠長な状況ではない。
玄人ギャルのイライラは募り、この認定試験は続けても未来がない事をレポートにまとめ、役人へプレゼンテーションを行い、メディアにも進出した。
その時の代替案が「おばさんライセンス」である。
OBSN国家試験は、年齢を重ねれば重ねるほど有利だった。変わらず合格点は九十点以上としていたが、国家試験に合格できるおばさんは少しずつだが増えていった。
OBSN国家試験に合格する人は「それおかしいと思います」と周りに流されない人や、「守るべきは会社か! 人か!」と人情熱い人、そして仲介・仲裁に入る事が出来る人、いわゆるお節介と紙一重の古き良き時代の口うるさいおばさん像が近いようで、人心掌握に長けている管理者向きの人がおばさんライセンスに合格する傾向があった。
また、
「あるある、わかるわ~」
という共感を呼ぶおばさんも面接試験では有利なようだった。
見た目がおばさんっぽければ誰でも合格できるわけではない。国家試験にする事により▲▲省の管轄下になり、おばさんライセンス所持者はあらゆるところに潜伏しており、何かの号令でテロを起こす事も出来るのではないかという噂が流れた。
この国家試験に合格したおばさんは更にレジェンドおばさんを目指し、日々おばさんを研究し、おばさんになるため鍛錬を怠らず、おばさん磨きに励むのであった。
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