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恐らく、一輪の赤いバラが、私の前に差し出される。
喫茶店のテーブルを挟んで向かい合う、机ばかりを見ている彼のプレゼント。
とげの付いた小さなつぼみ、まだ開いていない花弁はうっすらと赤い。
生き生きとしたつぼみ、茎やがくが青々しく若く新鮮。
細かく揺れるつぼみ、持ち手の緊張が映された鏡。
両手でもたれたバラのつぼみ、握る強さで茎が折れてる。
彼からの言葉は、いつも少ない。
「ああ」とか「はい」とか、簡単な応答しか返ってこない。
テーブルの上の彼のブラックのコーヒーも「いつものでいい?」に対する、彼の返事で私が頼んだもの。
でも、言葉が無くても彼の思いは伝わる。
繋いだ手は、今みたいに震えているけど、彼の手はいつも車道と反対側。
愚痴ばかりこぼす私の話も、感想は返してこないけど、今みたいにいつも黙って聞いてくれる。
考えていることはわからないけど、想ってくれていることは、いつも分かっている。
そんな、彼の奥ゆかしい気持ちを代弁した「花言葉」、きちんと返さなければ恋人としての名が廃る。
古今東西、花言葉にはいろんな意味があるけれど、今の彼を見れば、手に持っているのは「心配のまじった恋の希望」だということは明白。
私は、つぼみを受け取り、そのとげを取って、彼にさやしく微笑んだ。
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