3 九月二十六日(二日目)

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 しかしいくら見回ってみたところで、何の変哲もない一軒家であるという以外に発見はなかった。一階はひと続きになったダイニングとリビング。それに風呂とトイレがあり、あとは吉瀬と志津代がふたりで入っている部屋がある。どうやら夫婦という設定らしいが、問題はないのだろうかと思わなくもない。とはいえあんな歳にもなれば、今さら男だ女だどうこうもないのか。そして二階には三室。廊下の片側に俺と愛梨の部屋が並び、突き当りに弥生が閉じ籠っている部屋がある。廊下の先には六畳ほどはあろうかという広いベランダがあり、外に出ればこの界隈を見渡すことができた。  最初に思った通り、完全に新築というわけではないようだった。大規模なリフォームを行ってはいるらしいが、ところどころに古い部分を見つけられなくもない。窓のサッシにはかすかに錆が浮いていたり、あるいは庇の下に汚れがあったり。しかし建物自体が建ってどのくらいになるのかまではわからない。その手の専門家でも何でもないのだから。  一階のリビングまでをぐるりと見終えて、リビングのソファに腰を下ろした。時間潰しのつもりではじめてはみたものの、三十分とかからなかった。さて、これからどうしたものかと思案する。  時刻はまだ十時にもならない。朝食をとらなくても、空腹感はまったくなかった。それでも用意されるのは朝食と夕食だけということは、昼食はどこかで済ませてくる必要があるということだった。つまり、ずっとここに閉じ籠っているわけにもいかないということだ。  考えてみれば、橋口たちの縄張りに近付きさえしなければいいことだった。やつらの上部組織の事務所は新宿にある。その周辺にさえ踏み入らなければ、あいつらにも行き当たらずに済む。  秋にしてははっきりとしない陽気だった。切れ目なく厚い雲が空を覆っているが、すぐにでも雨が落ちてくるという気配もない。それでもいつの間にか残暑も和らぎ、半袖ではうすら寒く感じるほどだった。  俺は表に出ると、外から家の外観を眺め渡した。やはり、何も変わったところは見て取れない。いったいこの『仕事』は何なのか。俺たちは何をやらされようとしているのか。やはりまったくわからない。
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