10 十月二日(九日目)

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「あんたたちはどうする。どう考える」  すると愛梨がゆっくりと頷いて、テーブルの上の手錠を掴んだ。吉瀬が顔を上げて、「おい!」と声を上げる。 「タローちゃんは黙ってて!」  彼女はぴしゃりと言った。そうして傍らに座る志津代の手を握って、照れ臭そうに目を逸らしたまま訊いた。 「一緒に、いてくれる?」  志津代はにっこりと笑って、「はい」と答える。 「おい、お前ら……」吉瀬が憤慨したように言いかけたが、またすぐに遮られた。 「お父さんは黙っててください。ここは修司くんが正しいです」  思いもよらず強い言葉に、吉瀬は気圧されたように黙り込んだ。はせせら笑いながら、俺は言ってやる。「手懐けたんじゃなかったのか?」 「うるさい」やつは苦々しげに吐き捨てる。女たちに裏切られて、傷付いたような顔だ。「だいたいお前はいいのか。借金を全額肩代わりさせるって約束もチャラだぞ」 「元々、俺が頼んだことじゃねぇよ」俺はそう肩をすくめる。「そうなりゃ有り難いとは思ったさ。しかし欲かいて自分が死ぬのも、誰かを見殺しにするのも、まっぴらごめんだ」  そう、欲をかいてろくなことがあった試しがない。俺は頷いて立ち上がった。  弥生はとうとう最後まで姿を現さなかった。あいつも文句があるだろうが、まあ知ったこっちゃない。また次、別の誰かで頑張ってくれりゃいい。 「それじゃあ、あとは……」  と、呑気な声で志津代が言った。いったい何かと、踵を返しかけた足を止める。 「十年前、ここに住んでた家族の人たちは、みんな包丁で刺されて死んだのよね?」  確かに全員の死因は刺殺。それぞれ数カ所を刺されての失血死だ。凶器は台所包丁だった。それは最終的に、真島護の死体が握りしめていた。 「それがどうした?」 「ええ。だからそれがそのままお台所にあったら危ないと思って。だからこの家にある刃物は、全部隠しちゃいましょう。そうね……お庭のどこかに埋めてしまうのもいいわ」  全員が「……ああ」と納得したように漏らした。確かにいい考えだった。というか、なぜそれを思いつかなかったのか。
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