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「そうだな……そのほうがいい」
「わかりました。じゃあお父さん、お願いしますね?」
名指しされた吉瀬が、不思議そうに首を傾げた。別に嫌というわけでもないようだが、一応は俺も名乗り出る。
「やるなら俺も手伝うが?」
「いいえ、これはお父さんの仕事です。修司くんと愛梨ちゃんはいったん部屋に戻ってて。ふたりにわからないところじゃないと、意味がないから」
その説明に、俺たちはまたなるほどと納得する。埋めるのを見ていれば、あとでまた掘り出してしまうかもしれない。それなら、どこに埋めたかは知らないほうがいい。
「それが終わったら、晩ご飯にしましょう。そろそろお腹も空いたわよね」
しょうがねえな、ところ吉瀬が腰を上げる。それを見て、俺と愛梨はダイニングを出た。それぞれにひとつずつ、黒い手錠を持って。
「大丈夫……だよね」
階段を上がりながら、愛梨は不安げに訊いてきた。俺は「……たぶんな」とだけ答える。
「たぶん、じゃ駄目だよ。修司くんはどうも頼りないなぁ」
「あいつみたいに、根拠もなく安請け合いするよりマシだろ?」
そうは言ってみたが、愛梨はまだ不満そうだった。「修司くんも、ちょっとくらいはタローちゃん見習ってもいいと思うな……」
「冗談じゃない。真っ平ごめんだね」俺はそう言って、ちっと舌を鳴らした。
三十分ほどすると志津代が呼びに来て、俺たちは最後の夕食を摂る。
しかし弥生はとうとう、部屋に籠ったまま出ては来なかった。
夕食を終えて部屋に戻ると、俺は右手に手錠をかけた。そして片方は、ベッドのスチール部分に固定する。脚からそのままヘッドボードの枠になっていく途中の、決して抜けない輪のようになったところだ。鍵はどうするか迷って、結局手の届かない部屋の隅へと投げ捨てた。これで、自分ひとりではこの枷から逃れることはできなくなった。よし、これでいい。
「あんたも、これでいいよな」
返事がないことは承知で、虚空に向かって問いかけた。真島護も、きっと止めはしないだろう。そう思っていた。
十年前の今日起きたこと。そして何もせずにいれば、今夜これから起きること。それがどんなことだったのかは、わからないままだ。けれどそれが悲劇であることだけは間違いなかった。それなら、避けるしかない。そうだろう?
あんただってそう思うだろう、真島護。何かに操られるままに、その悲劇をもう一度繰り返すなんて……あんただってごめんだろう?
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