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11 十月三日(十日目)
まず最初に感じたのは、猛烈なまでの喉の渇きだった。いや、それは息苦しさなのか。求めているのが水なのか酸素なのかもわからない。喉から胸までからからに乾涸びて、ひび割れて、その上大量の砂が詰まっているかのようだった。俺は酸欠の金魚のように喘ぎながら立ち上がる。いや、立ち上がろうとする。しかしできなかった。立ち上がりかけて、何かに引っ張られるようにまた崩れ落ちた。
自分がどこにいるのかわからなかった。身体から意識が無理矢理引き剥がされたかのようだ。自分の身体がどこにあるのかわからない。俺の意識がどこへ行ったのかもわからない。ただ、立たなければならない。わかっているのはそれだけだった。行かなきゃならない。どこへかは知らない。けれどとにかく、行かなければならないのだ。けれどその、ただひとつわかっていることができない。どうして。ただ、立ち上がる。それだけのことすらできなかった。
手首に、きつく締め付けられるような痛みが走った。目をやると、黒い手錠でベッドに繋がれた右手が見えた。そうして俺はようやく、昨夜自分で何をしたのかを思い出す。
辛うじて残っていた冷静な部分が、「ああ、これか」と納得していた。あのとき愛梨は、こんな渇望感にかられながら、わけもわからずにここへ戻って来たのかと。きっとこの苦しみは、『家』の軛から逃れようとした罰。おそらくすでに俺の中にいた真島護は、ひとりで階下へと降りて行ったしまったのだろう。俺の身体をここに置いて、俺の大部分を無理矢理引き千切って。
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