11 十月三日(十日目)

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 ならば俺は、この痛み苦しみに耐えなければならない。朝が来るまで、耐え続けなければならないのだ。そうすれは、何も起こらない。実体のない真島護の意識だけが降りて行っても、きっと何もできないはず。今頃隣の部屋では、愛梨も同じ苦しみに耐えているだろう。その苦しみは、俺が強制したものだった。 「なら、あにっ……男の俺が……耐えないでどうする」  自分を叱咤するように、声に出してつぶやいた。噛み締めた歯の間から絞り出すように。危うくつい、「兄貴の俺が」と言いそうになってしまったが。俺はあの女の兄貴でも何でもない。いったい何を勘違いしてるのか、俺は。  自嘲するように唇が歪んだ。しかしそれによって、辛うじて意識を繋ぎ止めていた力が緩む。ぎりぎりまで張り詰めていた糸が切れ、俺はまた混濁へと飲み込まれた。  痛い痛い痛い。苦しい苦しい。水をくれ。痛い。息ができない。俺はどこにいる。畜生。俺はどこへ行った。苦しい。ここはどこだ。助けてくれ助けて。俺はどこだ。俺がなくなる。怖い。俺が俺でなくなってしまう。  遠くから、赤ん坊の泣き声が聞こえた。  行かなきゃならない。行かせてくれ。苦しい。助けてくれ。何しやがるこの野郎。痛い。どうして動けない。せめて息を。くそっ。離せ。頼むから行かせてくれ。行けば楽になれる。息ができる。水が飲める。苦しいんだよ。頼むよ。  赤ん坊の泣き声が聞こえる。  目の前に黒い影が見える。何かがそこにいる。 「だ……だっ、れ……か」  もう声にならなかった。それでも懇願するように、影に向かって手を伸ばす。両手で縋り付きたかったが、それはできなかった。だから辛うじて自由になる左手で。 「たっ、た……すけっ、けっ……」  指先に何かが触れた。影には実体があった。けれどそれが何なのか、俺にはもうわからなかった。
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