6 九月二十九日(五日目)

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 しかしそれでも、何かがおかしいのだけは確かだった。冷静になって考えても、その感覚だけは拭えそうにない。かつて一家惨殺事件があった家。夜毎に見る夢。寝覚めに残る奇妙な感覚。吉瀬には事件のことをあの女にぶつけることを止められたが、やはりいくつかは確かめておかなければならないだろう。  あくまでも目的はこの十日間を何事もなくやり過ごすこと。それでも、余計な不安は早いうちに解消しておきたい。  廊下に出ると、階下へ降りる前に真島弥生の部屋へと向かった。そういえばこの部屋を訪うのははじめてだったな、と気付く。おそらくは俺たちにあてがわれたのと同じく狭い部屋なのだろうが、雇い主でもあるのだから、必ずしも同じところに寝泊まりする必要もないだろうに、などとも思った。  ドアをノックすると、すでに目覚めてしていたのか、中から「誰?」と声が聞こえた。 「俺だ。少し訊きたいことがある」  それに対する返事はなかった。しかししばしの間を置いて、がちりと施錠を解く音がした。家の中でも鍵を掛けているのかと呆れたが、扉が開くとさらに驚かされることになった。細く開いた扉の間に、なんとドアチェーンまでかかっていた。いったい何をそんなに警戒しているのか。 「いったい何の用。もうすぐ朝ご飯の時間よ」  声を潜めて、ドアの隙間に顔を近付けた。「その前に、あんたと少し話が……」  ドアチェーンを挟んで、息がかかるほどの距離に弥生の顔があった。細く真っすぐに通った鼻筋。やや尖った顎。唇の端に、近付いてみないとわからないほどの小さな黒子。そのとき不意に頭の中で何かが繋がって、俺はいいかけた言葉を飲み込んだ。
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