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人間は本気の本気で気が動転すると、本当に言いたい言葉が出てこないのだと、この時僕は自分自身に驚いていた。
『 お伺いしまーす』
誰かが呼んだのだろう、ちょうど追加の注文を取りに店員がやってきたところで、僕は悪い魔法から解けたかのように咄嗟に我に返った。
『 ・・・なんでそれを俺に言うわけ?』
僕は自分を取り戻せたことで、フツフツと時間差でひかりに対して苛立ちを覚えた。それを必死に隠したつもりで、彼女に聞きたかった事を率直に聞いた。
課長に奥さんがいることは僕も含めみんなが知っている。二人の関係は、所謂不倫だった。
『 ・・・なんでろう、ね』
伏し目がちに歯切れの悪い言葉を口にするひかりは、とても悲しそうな顔をした。それを見た僕はそれ以上何も言えず、半ば無理やりに『そういえばこの前の企画書さ、 』と話を変えた。
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