センチメンタルバニラな僕ら

7/55

13人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
 チキンな僕には今の関係止まりが丁度いいのかもしれない、とも最近思ってきていた。  「へえ」  「興味無いなら聞かないでくれる?」  「・・・それ信じてんの?」  「・・・どういう意味?」  若干苛立った様子のひかりの言葉に、人の気も知らないで、とカチンと来た僕は、つい要らないことを口走ってしまった。  少し前、あの男を街中で見かけた。隣には、ひかりではない女を連れていた。僕にはすぐに、それが奥さんだとわかった。以前、課長の忘れた社員証を届けに会社に来ていたことがあったその人は、社長よりも10歳ぐらい年下の、言えば僕らと同い年ほどの若い奥さんだ。可愛らしくて、礼儀正しい。あの課長にあの嫁あり、と言った不思議と年齢差は感じさせなかった。なんだ、お互いニコニコと腕なんか組んで仲悪いんじゃないのかよ。だったらなんでひかりと不倫なんかしてんだよ。  ひかりは知っているのか。いや知るはずがない。この際教えてやればいい、目を覚まさせてやれと僕の中の悪魔が囁く。  けれど、どうしたってあの日のひかりが頭を霞む。結局、僕は知られてはいけないという焦りから「別に」と一言言ってその場を立った。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加