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本当は「病院は日本中どこにでもあるし患者はどこにでもいる、だから一緒に来て欲しい」と言いたかった。自分のエゴだということは十分分かっていた。 離婚は自然に決まった。 特に喧嘩したわけではない。泣き別れたわけでもない。ただ、お互いがお互いを縛ることを止めただけだ。お互いの夢を叶えるために。 それなのに。 人の命を守りたい。そう願って看護師になって、自分の幸せは二の次に頑張ってきたというのに人に裏切られる。それはあんまりにも辛すぎる。 「俺ん所に来るか?」 自分のところに来れば守ってやれる。今しばらくでも傷ついた羽を休めることは出来る。そのくらいの場所は開けてやれる。 「えー?行かないわよ。私今の仕事も職場も好きだもの。ただ、ね。」 彼女の音にならないため息が聞こえた気がする。 「うちの病院ね、新たに感染症特別病棟を設置したのよ。そこは専任の医師と看護師で構成されてて……」 「ちょっとまて。特別病棟?まさか、お前……」 「専任看護師。命令されたわけじゃないわよ。志願したの。」 「おい!」 「大丈夫よ、感染防御は抜かりない。」 慌てて机上のマウスを動かす。指先が震えを止められない。海の向こうの出来事くらいにしか思っていなかったことが肌にザクザク刺さってくる。会社の人間がうるさいから取り敢えずマスクはつけているが、問題の感染症がどんな病気でどんな症状が出るのか、実際よく分かっていない。
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