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「でも、それが理由ではないんです。大好きだった友達が死んでしまったんです」
後ろの男の子達がお前マジしねよーと下品な言葉を並べてじゃれついている声が耳に入ってきました。ちらりと見ると同じ年くらいのオレンジ色の頭をした男の子が隣の子にスマートフォンを取られて遊んでいました。不良不良と思っていましたが、同じように学校に行っていない私も彼らと一緒なのかもしれません。
「周りのうるさいクラスメイト達と違って、こんな私にも微笑みかけてくれました。とても優しくてキレイな人でした。彼女がいなくなってしまった今、私には死ぬ理由しかありません」
彼女と初めて会話をしたのは高校一年の六月でした。入学してすぐにクラスになじめなかった私は友達ができることもなく常に一人で行動していました。
――すみれって名前かわいいね。
そんな中、初めて声をかけてくれたのが彼女でした。小学生の時すみれの花言葉でからかわれてから私は自分の名前があまり好きではありませんでした。けれど、すみれの花が好きなんだと私の目を見て微笑む彼女を見ていると不思議と私も自分の名前を好きになれる気がしたのです。その時からわたしは、綺麗な硝子細工のようなきらきらした瞳から目がそらせなくなりました。
「僕のせいで嫌な思いをさせてしまったんですね。でもそれが理由ではなくてよかった」
センセイは少し申し訳なさそうな顔をしましたが謝ることはしませんでした。
「すみれって名前とてもかわいらしいと思いますよ」
私は無意識に下唇を噛み締めていました。
彼女以外に言われたくなかった言葉を何食わぬ顔で口にした後、センセイはでも困りましたねと呟きました。
「あの花をかえることはできないんですよ」
私はセンセイの言葉にはっと顔を上げました。
「……花には何の意味があるんですか」
センセイは少し考えるようなそぶりを見せた後、私の目をじっと見ました。
「理由を、さがしているんですよ」
なんだか含みのある言い方でした。
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