ハナの貌

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 センセイは私の目をじっと見つめて穏やかに微笑みました。 「ハナさんも僕のせいにしていいんですよ。僕の罪は、もういくつ重ねても同じなので」  心臓がどくんと大きく脈打ちました。なんだかセンセイにはすべて見透かされているような気がしました。  ――黄色いパンジーの花、置いたのすみれちゃんでしょ。  そうあれは二日前、学校からの帰り道の出来事でした。彼女は放課後に教室にいることがなくなり、落胆し下駄箱で靴を履き替えていた私に彼女が声をかけてきたのです。その声は静かで、しかし所々震えていました。  ――私、全部みてたの。階段の下でぐったりしてる○○さんの頭に花瓶を振り下ろしてるところも、そのあとどこかからパンジーの花をもってきてまわりにばらまいてたところも。  保健室前のプランターから引っこ抜いてきたんだよと答えると、彼女の目に怯えが映りました。その日、そのまま私は半ば無理やり彼女と一緒に帰りました。怖いなら話さなければよかったのに、と私は思いました。 「センセイはお願いされたからやるんですよね。それならやっぱりセンセイは優しい人だと思います。ここまで来ていただいてありがとうございました。彼女に一度会わせたかったんです」  私は小さく頭を下げました。センセイがもう少し悪い人だったら良かったのに、と思いました。このまま彼女が死んだここで殺してくれたらどんなに嬉しいか。 「ハナさんはきっと特別死にたいわけではないんでしょうね。ただ生きる理由もないから僕にメールをくれたんでしょう。その場合だとまだまだ方法はありますよ。それではまた」  そういってセンセイは去っていきました。  方法とは何でしょう。自分では死に方が分からないから噂で聞いていたホームページにアクセスしてセンセイにわざわざメールをしたというのに。なんだか分からないこのもやもやした気持ちが晴れるかもとここまできたのに。
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