いざ、探検へ

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いざ、探検へ

翌日の土曜日は、もやで湿った朝だった。 チィとの約束は、檜枝岐村役場前に朝5:50集合だった。 6時発のバスに乗るためである。 ぼくはドキドキして、約束より1時間半も前に目が覚めてしまった。 両親には、近所の子と遊ぶとだけ伝えてあった。 子供だけで尾瀬に行くと言ったら、止められてしまうと思ったから、あえて詳しく説明しなかった。 昨夜は興奮しすぎていたから気づかなかったけれど、こんなに朝早くから出かけたら心配されるかもしれない。 急に冷静になると、電話機の横にあったメモ帳を1枚破り取り、書置きを残した。 『探検してきます。帰りは夕方になります。ケイタ』 「よしっ」 小さく声に出してみると、気合いが入った気がした。 ぼくは手早く着替えると、リュックの中身をもう一度確認した。 いつものシューズに足を入れる。 役場までは一本道。 約1.5㎞の道のりは、ぼくの足でも30分もかからない。 一歩進むごとに、胸が高鳴った。 左手に六地蔵が見えた。 それは、役場までもうすぐという目印だった。 この六地蔵を見ると、いつも『かさじぞうって、桧枝岐村の昔話なのかな?』と考えてしまう。 そして、かさじぞうの話を思い出しながら歩くと、役場についてしまうのだ。 かさじぞうの真偽は、未だに謎のままだ。 「おはよう!ケイタ」 チィは、今日も元気だった。 まだ薄暗い灰色の景色に、赤いジャンパーがぱっと目立つ。 「おはよう、チィ。  早いね! 絶対にぼくのほうが先だと思ったのに。」 「楽しみすぎて、早起きしちまったんだー。  おにぎり持ってきたけど、食うか?」 ぼくが返事をするより早く、ぼくのお腹が大音量で「ぐぅ」と返事をした。 これには、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。 ぼくたちはバス停そばのベンチでおにぎりを食べながらバスを待った。
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