78人が本棚に入れています
本棚に追加
その翌日。
私は先生と話そうと決心した。
とはいえ、人に見られている場所では声をかけにくいため、周りを見て人がいないことを確認してから声をかけようと思っていると、タイミングよく移動授業で先生は教室に一人。
誰もいないからといっても、人と話すのが苦手な私にはかなりの難関度、声をかけたいが声が出ず、このままでは私も移動しなければ授業に間に合わなくなってしまう。
どうしたものかと開いている扉から中を伺いながら悩んでいると、私に気づいた先生が口元に笑みを浮かべ手招きをしている。
私は教室の中へと入り先生に近づいていく。
すると先生に「もう少しで次の授業だが、少し話すか」と言われ、私は頷く。
だが話すと言っても何を話せばいいのかもわからず、無表情の見た目とは裏腹に内心はパニック。
「無理に話す必要はねえよ。山中のペースでいいから慌てるな」
昨日と同じように頭に手が置かれ、その言葉で緊張が和らぐ。
「あの……先生は、なぜ私の事を気にかけてくれるんですか」
久しぶりに家族以外でこんなに長い言葉を発したかもしれない。
でも、気になっていたことだ。
すると先生はフッと笑みを浮かべて「それはお前が俺の生徒だからだ」と言う。
今まで、先生を含めた周りみんな、私のことなど気にもとめていなかった。
誰も私に興味なんてなかった。
なのに、この先生だけは違う。
自分でも気づかなかった私の本音に気づいてくれた。
それが嬉しくて、この時私は初めて笑みを浮かべて「ありがとうございます」と先生に伝えた。
周りが言う通リ、先生は優しくて面倒みのいい兄みたいな存在。
もし私に兄がいたら、先生のような兄が欲しかった。
この日から私は、人目がないところで先生と話し、今では家族のようにスムーズに会話ができるようになった。
「先生は結婚しないんですか?」
「残念ながら、女にはいつも逃げられちまうんだよな」
そう言いながら苦笑いを浮かべる先生。
どうやら先生が付き合った相手もみんな私達生徒と同じで、先生のことを恋愛としては見られず、結局付き合っても別れるか告白しても振られるかのようだ。
そのうえ、告白された回数は人生でゼロ回。
いい人なんだけど、いい人過ぎて恋愛にならないんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!