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翌日。
私はぎこちなくも友達二人と普段通りに話した。
先生も協力してくれて出来た友達を、簡単に手放すようなことはできない。
それが例え利用されていたとしても、寂しいと思っている自分の気持ちに気付かされてしまったから。
「山中、一緒に帰らねーか?」
下校時間。
私を誘ったのは景渡くんだった。
正直昨日あんな話を聞いたばかりで怖くて、景渡くんも私を友達としてみていなかったらと考えていると返事ができない。
「あ、私も一緒に帰りたーい」
「うんうん、四人で帰ろうよ」
友達二人が四人で帰る流れに持っていこうとすると「悪いけど、俺が誘ったのは山中だけだから」と言い、私の返事も聞かずに腕を掴まれ、そのまま一緒に帰ることになってしまった。
沈黙が二人の間に流れていると、景渡くんが口を開く。
「あのさ、俺のせいでごめん。折角練習して友達出来たのにさ」
「ううん。気にしないで……あれ? なんで練習の事知ってるの?」
しまったと口元を手で隠すと、景渡くんは恥ずかしそうに頭を掻き話してくれた。
先生に私の話し相手を頼んだのが自分であることを。
「山中ってさ、ずっと寂しそうにしてたからさ」
「寂しそうなんてなんでわかるの? それに、なんでそんなこと――」
「お前のことが気になってるからだ! 俺は山中を見てきた。俺は山中に何かしてやりたかったんだ」
この時、先生の言った言葉をようやく理解した。
先生は全部知っていたから、私にあんなことを言ったんだ。
「私を見てる人は案外近くにいる人……か」
「なんかいったか? それよりも、流石に恥ずいんだが」
耳まで赤くなっていてクスッと笑うと「何笑ってんだよ」と景渡くんは拗ねてしまう。
そんな景渡くんにごめんねと謝る。
「ありがとう、気にかけてくれて。じゃあ、景渡くんは私の友達、でいいのかな?」
「ああ、友達だ……ん? いや、そうじゃなくて俺は山中が――」
友達と聞けたことに喜び、その後の言葉は私の耳には入らない。
でも、友達が出来たのは先生のお陰でもあるから、明日改めてお礼を伝えよう。
その翌日。
先生と二人きりの教室で、私は景渡くんから聞いた話を全て話し。
先生が協力してくれていたことにお礼を伝えた。
「なんだ景渡、喋っちまったのか。で、告白されたのか?」
「やだなー、告白なんてされるはずないじゃないですか。友達になれただけで奇跡ですよ」
珍しく感情を表に出している私の心は踊っていた。
そんな私の姿に何処かぎこちない笑みを浮かべながら「やっぱ景渡にはまだ言えなかったか」という言葉が聞こえ、私は首を傾げる。
「あー、気にすんな」
「はあ……? あの、先生に一つ聞きたいんですけど、なんでこんなことに協力してくれたんですか」
「最初にも言った通り、俺の生徒だからだ。それに――」
先生は私の後頭部に手を添え、グイッと引き寄せると耳元で囁く。
「山中を選んだのは景渡だが、俺にも似た理由があったのかもな」
そう言い離されると、先生はニッと笑みを浮かべ「次の授業が始まるぞ」と言う言葉で私は慌てて移動教室へと向かう。
先生が言っていた言葉の意味はわからなかったが、兎に角今は友達ができたことを嬉しく思いながら教室へと向かった。
二人が選んだ理由はただ一つ。
でもその理由はまだ、二人の中に——。
《完》
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