●2. やっちまった

7/11
前へ
/358ページ
次へ
「多分、お姉さん。命の恩人だと思う。 あのまま公園に捨てられていたら俺、ひょっとしたら死んでたかもしんないし。 あと、Tシャツもありがと。 本当なら、洗って返したいトコロなんだけど」 「いいよ、あげるよ。 そのツアT、パジャマで散々着まくったヤツだしさ」 Tシャツを脱ごうとする少年を、絢音は慌てて制した。 「君、この後どうする気? まさか、その格好で出ていく訳?」 「まぁ、そうなるだろうね」 「そんな、傷だらけの状態で? ズボンどころか、靴も無いのに」 「それは、仕方ないよ」 少年は再びため息をつくと、玄関に目をやった。 「ココを出ていったら、さっきも言ったようにその足で交番まで行って、その後にどうするか考えていくよ。 施設に行くなり、ババアのトコロに引き取られるかどうかは分からないけど、そこは流れに身を任せる感じでさ」 言い終えた少年は、心配する絢音をヨソに、悠然といった様子で玄関まで歩を進めていった。 「短い間でしたけど、お世話になりました。 あと、カップヌードルごちそうさまです。 もし俺が落ち着いて、その時にお姉さんもココにまだ住んでいたとしたら、今日のお礼は必ずさせてもらうから」 少年は再び頭を下げると、玄関のドアノブに手をかける。 「……あの」 しかし、その少年に向かって、絢音は引き留めるように言葉を投げ掛けた。 「んっ?」 少年はドアを開けるのをやめ、ダイニングチェアに座ったままでいる絢音に視線を向ける。 が、引き留められたというのに、少年のその視線は極めて無機質であり、一切の希望も下心も込められていなかった。
/358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

425人が本棚に入れています
本棚に追加