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「多分、お姉さん。命の恩人だと思う。
あのまま公園に捨てられていたら俺、ひょっとしたら死んでたかもしんないし。
あと、Tシャツもありがと。
本当なら、洗って返したいトコロなんだけど」
「いいよ、あげるよ。
そのツアT、パジャマで散々着まくったヤツだしさ」
Tシャツを脱ごうとする少年を、絢音は慌てて制した。
「君、この後どうする気?
まさか、その格好で出ていく訳?」
「まぁ、そうなるだろうね」
「そんな、傷だらけの状態で?
ズボンどころか、靴も無いのに」
「それは、仕方ないよ」
少年は再びため息をつくと、玄関に目をやった。
「ココを出ていったら、さっきも言ったようにその足で交番まで行って、その後にどうするか考えていくよ。
施設に行くなり、ババアのトコロに引き取られるかどうかは分からないけど、そこは流れに身を任せる感じでさ」
言い終えた少年は、心配する絢音をヨソに、悠然といった様子で玄関まで歩を進めていった。
「短い間でしたけど、お世話になりました。
あと、カップヌードルごちそうさまです。
もし俺が落ち着いて、その時にお姉さんもココにまだ住んでいたとしたら、今日のお礼は必ずさせてもらうから」
少年は再び頭を下げると、玄関のドアノブに手をかける。
「……あの」
しかし、その少年に向かって、絢音は引き留めるように言葉を投げ掛けた。
「んっ?」
少年はドアを開けるのをやめ、ダイニングチェアに座ったままでいる絢音に視線を向ける。
が、引き留められたというのに、少年のその視線は極めて無機質であり、一切の希望も下心も込められていなかった。
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