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希望を抱けば、失望するだけだ。
なら、何も期待をせず、流れに身を任せて生きていけばいいではないか。
生まれ落ちて僅か十数年ながらも、これまでの人生が少年の「生き方」に影響を与えたのか、無機質な視線を放ち続ける少年のその顔は絢音と同世代の男性以上に達観し、大人びたモノであった。
「……あの」
次の句が切り出せない絢音は、場繋ぎとして同じ言葉を繰り返した。
──この子は、アタシと同じだ。
ドアノブに手を掛けたまま佇んでいる少年を見据えながら、絢音は思う。
さすがに育児放棄こそされてはいないものの、就職をキッカケに逃げるように地元を離れ、独り暮らしを始めた絢音。
そして昨日、彼氏に身勝手な別れを告げられた自分と同じく、この子は今、精神的において「独り」なんだと思った絢音は、少年に対して急速にシンパシーを感じ始めてきた。
もちろん、地元に帰れば絢音は「独り」ではない。
が、その地元は絢音が今現在住んでいる街から新幹線を乗らねばならぬ程離れた場所にあり、この街で「大人の人間関係」を続けてきた絢音は、常に「孤独感」を胸に抱き続けてきた。
絢音と同じく独り暮らしを続けている同世代の女性が、「世話とエサ代が大変」と言いつつも犬や猫を飼ったりしているが、今の絢音はその彼女達の気持ちが幾ばくかではあるが分かる。
彼女達は、自らが抱えている「孤独感」を、犬や猫とコミュニケーションをはかる事で少しでも埋めたかったのだ。
しかし、犬や猫といった愛玩動物と違い、目の前の少年は「年頃の男の子」であり、人間だ。
今でこそ愛嬌溢れる口調を保っているが、この少年がどういう子なのか絢音は殆ど分かっていないし、同居となれば動物と違ってそう簡単な事ではない。
「あの、行くトコロが無いんだったら、しばらくココにいたら?」
しかし、少年にシンパシーを感じ続けた結果、絢音は先程切り出せなかった言葉を、ほぼ無意識に口にしていた。
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