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怒りの収まらない絢音は、電車で地元の駅まで帰ると、その足ですぐさま近所の行きつけのダイニングバーへと入った。
「ビール下さい。
あと、フォアグラの巻き寿司とカリカリガーリックのペペロンチーノとタコのカルパッチョ」
「食べすぎじゃないですか?」と、馴染みの店員に苦笑混じりに咎められながらも、絢音は運ばれてきた料理を肴にビールを数杯、グビグビと飲み干していった。
明日は土曜日。
週休2日制の為、会社は休みである。
しかし、明日が休みだというのは良かったというべきか、間が悪かったというべきか、気がつくと絢音は自身のキャパシティを大幅に超えたアルコールを体内に摂取していた。
「帰れますか? 良かったら、家まで送りますけど」
「大丈夫だよー! もう家、すぐそこなんだからー!」
呂律の回らない口調で絢音は心配する店員に返すと、「コロス、コロス」と罵倒をブツブツと口にしながら、足をふらつかせた状態で店を後にした。
「次はもっと、素敵な人と付き合ってやるんだ」
右目に涙を溜めながら、独りごちる絢音。
もう、27歳。
「恋に恋する恋愛脳」という時期は、とっくに過ぎ、そろそろ結婚という現実問題に対して真剣に向き合わなくてはいけない時期だ。
「ただ、好き」というだけでは付き合いにくい年齢に差し掛かってきており、誰かと付き合うとなれば相手の年収や会社の規模などを、漠然とながらも考えなくてはいけないだろう。
「けど、せっかく無理して付き合ってきたってのに、その結果がこんな一方的な別れ方だとか……」
イケメンで年収もそれなりにあったので、数時間前の元カレとはある程度妥協をして付き合ってきたのだが、長男故のワガママで自分勝手な性格は、最後まで絢音と相入れる事は無かった。
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