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確かに自分はさっき、酔った勢いで
「あー、神様。
どうか可愛いタイプのイケメンで料理の上手な年下の男の子を、アタシの目の前によこしてくださいー」
ってな事を、夜中だというのに叫んだ。
しかし、こんな事件性がありまくる少年を拾って家に持ち帰るとか、いくら酔っているからといっても、さすがに社会人としてマズイだろう。
取り敢えず警察に電話をして、酔っていながらもこの状況を素直に説明すべきだろう、と絢音が決断した、その時であった。
「おなか、すいた……」と、かすれた声が小さく開いた少年の口から発せられた。
少年は生きていた。
そして、この僥倖に絢音はひとまず安堵した。
これで、「死体の第一発見者」として警察に通報する義務が絢音から取り払われたからだ。
が、絢音は次の問題に直面する。
目の前の少年に対して自分はどうするか、である。
このまま少年を置き去りにしたら、少年はまた暴行を加えられ、今度は本当に殺されてしまうかもしれない。
かといって、今すぐ警察に通報するのも、何かと面倒くさい事になりそうだ。
そして、少年は「おなか、すいた」と、再び絢音に向かって助けを求めている。
絢音はしばし葛藤した。
自宅のあるマンションは、すぐそこだ。
安マンションなので、エレベーターはついていないのだが、この距離と少年の体躯から考えるに連れ帰る事は何とか可能ではないか。
しかし、いくら失恋真っ最中とはいえ、欲求不満全開って感じで男の子を自宅に連れ帰るとか……。
絢音が悩んでいたその時、少年は「おなか、すいた」という言葉を三度、かすれ声で発した。
「……人助けなんだから、これは」
泥酔しきった状態が、絢音から冷静な判断力を奪っていったのか、気がつくと絢音は少年の右腕を担ぎ、少年の身体を引きずる形で目の前のマンションへと歩を進めていた。
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