426人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっ、それね。
さすがに上半身裸のままの状態はどうかな、と思って、取り敢えず着させたの。
君とアタシ、体格ほぼ一緒くらいだし、そのツアTも、ちょうどもういいかなって思ってたから」
「へー」
「あのさ、君。
なんで、あんな傷だらけの状態で公園で倒れていたの?
服も、トランクス以外全部脱がされてたし」
取り敢えず、少年と会話をしても問題無い、と判断した絢音は、胸中に秘めていた質問を単刀直入に切り出してみた。
質問を切り出された途端、少年のその表情から無邪気さが消えた。
そして、電池の切れたロボットのようにうつむき、少年はそのまま黙り込んでしまう。
「えーと、ゴメン。
やっぱ、そんな深刻な話だった?」
アザが浮かんだままでいる少年の横顔を見つめながら、焦った絢音はワカメスープを食べていたスプーンを幾度も触った。
「いや、話せない事は無いんだけど……」
少年はうつむいたまま、消え入るような声で言葉を返す。
「でも、それを話すには条件がある」
「じょ、条件?」
目の前の少年が「年頃の男の子」だという事を思い出した絢音は、貞操の危機を感じ、反射的に身を翻した。
「あの……」
顔を上げ、少年は再び絢音に目をやると、重々しい口調で切り出す。
「あの、何かごはん食べさせてくんない?」
「へっ?」
「いや、あのさ……」
少年は照れ臭そうに鼻の頭を人差し指でかくと、続けて言った。
「お姉さんが食べてる、そのワカメスープの匂いで、俺、物凄く腹が減ってきたんだよね。
つーか、この一昨日くらいから殆ど食べてないから、何かあったら食べさせて欲しいんだ。
こんな風に助けてもらって、さらにワガママ言うのは悪いと思ってるんだけど」
「あっ、全然いいよそんなの!
そういや、昨日助けた時も君、ずっと『おなかすいた』って言ってたしね」
拍子抜けした絢音は立ち上がると、先程見つけた「カップヌードル シーフード」のフタを開け、そこに沸かし直したお湯を注いでいった。
最初のコメントを投稿しよう!