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そんな彼女との出会いは美術の講義中だった。
僕は美術部に所属しており、その部活の先生だった教授の授業をとっていた。
大学に美術部があるのは珍しいが、この大学に美術専攻、略して美専があることもあり、美術専攻で受験をパスした僕を含め、部活にはそれなりの人数が集まっていた。
講義は水彩画を勉強するといった趣旨の講義で、一般教養の授業に組み込まれており、色々な学部の人がその授業を取れる仕組みになっていた。
僕は真面目な学生より、1ヶ月ほど遅れて授業にふらっと足を運んだ。
その日はちょうど実技の日で、机に百合の花が何本か挿された花瓶があり、それを描く課題が出されていた。
皆当然今日が実技だと分かっているので、絵具を用意していたが、僕は今日が初授業のため、何が必要か全く知らなかったので、当然絵具など持ってきているはずもない。(補足しておくが、決して威張れることではない。)
僕はジーンズの尻ポケットに手を入れた。
美専あるあるだが、細身の絵筆が一本発掘されたので、それを取り出す。まぁ筆があっても絵具がないとどうしようもないのだが。
「あの…一緒に使いますか?」
どうしようかと周囲を窺っていると、隣の先の女の子が声をかけてくれた。
彼女は、小声で囁くと、箱に入った絵具を笑顔で差し出してきた。
神なのか。
「ありがとうございます」
僕は絵具のチューブをいくつか選び、自分のパレットに色を出していく。
白、黄色、緑、黒。このくらいあれば大丈夫だろう。
僕は、もう一度ありがとうと小声で囁くと、目の前の花の花弁を描いていった。
彼女はせっせと目の前の百合とにらめっこをしながら、絵を描いていたが、たまに手を止めて僕の絵をそっと見ていた。
「はーいそこまで。皆描いた絵をその場に置いて、帰るように。乾いたら後で回収しておきます」
先生が腕時計を見て、終了の合図をした。
「おかげでなんとかなりました」
皆が、片付ける準備をして、教室が賑やかになると、僕は彼女に頭を下げた。
「いえ。それより、絵お上手ですね。美専の方ですか?」
彼女は、パレットを洗い終わると、布で軽く拭きながら、僕の絵をしげしげと眺めた。
「はい。絵しか取り柄がなくて」
「私、学部は文学部なんですけど、美術が好きで、美術部に入ってるんです」
「ほんとですか?僕も美術部ですよ」
「え!」
彼女は口に手を当て、驚いたように目を見開いた。
そのあと、部室に向かい、絵を描きながら、僕たちは色々な話をした。僕たちは好きなものもあってよく話が弾み、彼女は僕の話を聞いてよく笑った。
これが僕と彼女の出会い。
そこからは一緒に絵を描きにいったり、ご飯を食べに行ったりして、ちょうど半年前くらいに付き合い始めた。
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