スノードロップ症候群

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次の日、僕は届いた新聞を受け取ると、一面に「スノードロップ症候群 2日間で100人超え」という見出しが目に飛び込んできた。 僕は食い入るように記事を読んだが、どこの地方でどれだけ患者がいるといった事実しか書いておらず、有益な情報はほとんどなかった。 その新聞の記事は、こんな言葉で締め括られていた。 「スノードロップは、イギリスのある地方では死を象徴する花とされている。恋人が死んでいるのを見つけた彼女は、恋人の身体の上にスノードロップの花を置くと、彼の身体はたちまち雪の滴になったという話が伝説として語り継がれているからだ。まだこの病で、亡くなっている人はいないが、死を招くような花にならないことを祈りたい。」 僕は、来る日も来る日も、彼女が入院している病院に通い続けた。 彼女が生きていることは確認できていたが、体は依然として冷たく、何故この体温で生き続けられているのかが不思議だと、病院の先生は話していた。 いつの間にか1週間が経っていた。 僕は毎日病院に行くたびに、彼女が起きたときにすぐ食べられるように好物のプリンを買っていき、祈りながら彼女の冷たくて硬くなった手を握りしめていたが、彼女が目を覚ますことは一度もなかった。 僕は、身体的にも精神的にも、先の見えない不安で押しつぶされそうだった。 僕の目に映る世界は、徐々に色を失っていった。 彼女と歩いた大学からの帰り道は、何もなくてもとても楽しかったのに、何の感情も湧かなくなった。 彼女と一緒に食べたご飯は何を食べても美味しかったのに、1人で同じものを食べても何の味もしなかった。 近くでせんぱいって言ってまた笑ってほしい。 元気になってほしい。 僕は、河原に座って、川のせせらぎの音を聞きながら祈り続けた。 僕の願いはただそれだけ。
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