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「わたしのこと、忘れないでね」
淡く明るい青の瞳でこちらを見つめて、少女が囁く。
一面の青色。小さな白い手にも、瞳と同じ色の花。淡い金髪がそよ風に揺れている。
「何だよ、急に」
声変わり前の少年の声が不愛想に応じると、少女は視線を落とした。
「お母様が言ってたの。わたしの目は勿忘草色。このお花と同じ色。ねぇ、勿忘草の花言葉、知ってる?」
「知らない」
素っ気ない反応に、少女はくすりと笑う。
勿忘草色の瞳は微かに潤んで、揺らめいていた。まるで、雨上がりの花のよう。
「勿忘草の花言葉は、“私を忘れないで”なのよ。……ねぇ、お願い」
風が吹く。青い、蒼い花弁が、儚く散ってゆく。
少女の声は、祈りに似ていた。
「わたしが遠くに行っても、アリシアのこと、忘れないでね」
この時、何と答えたのだろうか。
思い出せない。擦り切れて傷んだ記憶の中で、彼女の声と真っ青な花だけが脳裏に焼きついていた。
幼馴染のアリシアが王都につれていかれたのは、次の日のことだった。
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