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その3
夏美
さあ、そろそろ横田競子の出走だわ
「先輩、次の次ですよ、ウチの横田は」
「ええ。タイムはさっき言った通り2本とりでね。私は歩数を計るから」
「承知しました」
私は右隣に立っている陸上部の新主将・笹原珠子と最終確認をした
「…でも、先輩。その指摘、なんで予選走った後、横田に話さなかったんですか?本人に伝えれば準決勝でそれを生かせたんじゃないっすかね」
「ササ、今日結果を出す必要はないのよ。ふふ、新人戦だもん、その名のごとくよ。あの子はいい素材なんだから、まずは自然な形で走らせて、然るべき誘導をしてあげることが肝心だって。何しろあの長いバネのあるコンパスはいいわ。身体能力も優れてるみたいだし、根性だって文句なしよ。うまく導いていってあげれば夏の大会にも結果を出せる。だから、今日は見極めるのよ。しっかりデータを把握して」
「じゃあ、先輩はあの子を…」
「うん、今までの練習やさっきの予選見る限りじゃあ、あのコンパスを生かせるのは短距離より中距離だと思う」
「わかりました。ああ、始まりますわ」
”バーン…!”
ピストルの音が鳴り響くと横田競子が勢いよく飛び出した
同時にササと私の作業もスタートよ
そして‥、横田競子は5位でゴールした
...
私は早速、ササとデータを照らし合わせたわ
「先輩、どうですか?」
「やっぱりね…。彼女、あのコンパスと今の走り幅でフルスピードに達するのは100Mを超えた後ね。つまり短距離じゃあ、フル回転に持ってきたったところでゴールだから、今の走りを生かしきれない…」
「でも、これからの訓練によってダッシュの方法を身につけることだって可能じゃないっすかね」
「まあ、そうだけど、それより中距離の方が生かせるのりしろは大きいよ。持久力はあるんだからさ、あの子」
「うーん、なるほど…。で、いつ話します、本人には?」
「先生とよく相談して、それからにしましょう。今日は閉会式前にひと声かけて終わりにね」
「はい、そういうことなら…。あれ?あそこの水飲み場にいるの、その横田じゃないですか?…おっ、誰かと話してますね。…男だ、あれは」
確かに彼女のようだ…
それに話しかけているのは他校のジャージを纏った男の子だし
「ああ、別にいいでしょ。レースは終わったんだし、決められた作業割り当てこなす間にならさ」
「ええ、まあ…。でも、なかなかマメですね、あの子‥」
二人はしばらく200M先の水飲み場を遠目に見ていた…
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