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リンゴの紙袋は見つからなかったので、代わりにネリネの紙袋に“後悔”と書き記した。
ミドリのリンゴ、か。
俺は家を出て海に向かった。
海中カプセルに乗り込もうとするヒューマノイドに掴みかかる。
「リンゴ、返してくれ」
ヒューマノイドが倒れるのと同時にリンゴが砂地に落ちた。俺はリンゴに気を取られ、カプセルの中から誰かが出てきたのに気付くのが遅れた。
似たような状況が前にもあった。俺がこの星から出ようとしたときだ。ミドリが反対するのを無視した俺は家の裏口から海に来て、海中カプセルに乗り込もうとしたところを、人間に銃で撃たれた……。
カプセルから出てきたのは、ミドリだった。
「“後悔”なんてしてないよ。ただ、エニシにも食べて欲しかっただけ」
そう言うと彼は地面に落ちたリンゴを拾い、袖で拭いてから齧った。
「もう僕たち、固形物食べていいんだってさ。改良されたんだって、消化器官」
また一口リンゴを齧る。しゃりしゃりという音が聞こえてくる。
「お前、ミドリじゃないな」
ミドリと同じ顔、だけど彼がまとう空気が違う。別人の匂い。
「じゃあさ、エニシはエニシだって言えるの?」
倒れたままになっていたヒューマノイドがぎしっと音を立てながら、体勢を立て直す。
「ママ、次はイチゴの種を持ってきて。エニシが枯らせちゃったみたいだからさ」
「分かったわ、ミドリ」
ヒューマノイドは海中カプセルに乗ると、海に沈んでいった。
「エニシも見たでしょ? 海底で眠る僕やエニシをさ」
あれを見たのは前のエニシだったっけ? と、ミドリは首を傾げた。
俺は吐き気を催して、その場でうずくまった。
新しいミドリは真っ直ぐに家へ戻っていった。
この星が誕生してから、ずっとそうしてきたように。
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