イン・ザ・カプセル

10/10
前へ
/10ページ
次へ
 リンゴの紙袋は見つからなかったので、代わりにネリネの紙袋に“後悔”と書き記した。  ミドリのリンゴ、か。  俺は家を出て海に向かった。  海中カプセルに乗り込もうとするヒューマノイドに掴みかかる。 「リンゴ、返してくれ」  ヒューマノイドが倒れるのと同時にリンゴが砂地に落ちた。俺はリンゴに気を取られ、カプセルの中から誰かが出てきたのに気付くのが遅れた。  似たような状況が前にもあった。俺がこの星から出ようとしたときだ。ミドリが反対するのを無視した俺は家の裏口から海に来て、海中カプセルに乗り込もうとしたところを、人間に銃で撃たれた……。  カプセルから出てきたのは、ミドリだった。 「“後悔”なんてしてないよ。ただ、エニシにも食べて欲しかっただけ」  そう言うと彼は地面に落ちたリンゴを拾い、袖で拭いてから齧った。 「もう僕たち、固形物食べていいんだってさ。改良されたんだって、消化器官」  また一口リンゴを齧る。しゃりしゃりという音が聞こえてくる。 「お前、ミドリじゃないな」  ミドリと同じ顔、だけど彼がまとう空気が違う。別人の匂い。 「じゃあさ、エニシはエニシだって言えるの?」  倒れたままになっていたヒューマノイドがぎしっと音を立てながら、体勢を立て直す。 「ママ、次はイチゴの種を持ってきて。エニシが枯らせちゃったみたいだからさ」 「分かったわ、ミドリ」  ヒューマノイドは海中カプセルに乗ると、海に沈んでいった。 「エニシも見たでしょ? 海底で眠る僕やエニシをさ」  あれを見たのは前のエニシだったっけ? と、ミドリは首を傾げた。  俺は吐き気を催して、その場でうずくまった。  新しいミドリは真っ直ぐに家へ戻っていった。  この星が誕生してから、ずっとそうしてきたように。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加