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「……………」
説明を聞き終わって熱海さんは、しばらく黙っていた。
あまりにも神妙にしていたので声をかけるのがためらわれたが、しばらくしてから彼女は顔を上げて、
「すごいわ。こんな方法があったなんて……!」
拍手でもしそうな勢いで、目を輝かせている。
そんな姿もまた美しかった。
「まあ。……あ、それでなんですけど」
「この研究はもう発表したの?公表したらすごいことになるわ」
話しだそうとした時、彼女と言葉が重なった。
タイミングがつかめない
「いえ、まだです。完成させてまっさきに来たもので」
それを聞いてやや、彼女は驚いたようにする。
しばらく考えてから、
「そうですか。あ、すいません飲み物も用意しないで。今持ってきますね」
その優しさが染みる。
ああ、好きになってよかった、と実感する。
少しして彼女は戻ってきた。
紅茶を渡され、それを飲む。
「おいしいです」
「それはよかった」
にっこりと笑う表情もまた可愛らしかった。
「それで、詳しいデータを見たいんですが、いいかしら?」
「ええ、もちろん」
俺は持ってきたメモリを彼女に渡した。
彼女はそれをパソコンに接続し、データを閲覧し始めた。
うーむ、しかしまた期を逃してしまった。
どのタイミングで言えばいいのやら。
けれど集中している彼女に軽率に声もかけられず、また時間がすぎていく。
彼女が閲覧を始めて、1時間ほどたった。
「見終わったわ。ありがとう」
やや疲れた表情でこちらを見る彼女。
「いくつか質問があるのだけれど、いいかしら?」
「はい」
「そうね、じゃあまず……気分はどうかしら?」
気分?
どうしてそんなことを聞くのだろうか。
むしろ今は彼女の体調の方が心配だが。
そんな細かい気遣いもできるとは。
ますます好きになってしまう。
「全、く。問題、ない、です……」
その時だった。
返事をしようとしたところで、異変が起きたのだ。
急激な眠気。
意識が丸ごと持っていかれる感覚。
思わず座っていた椅子に倒れ込んでしまった。
俺はどうしてしまったのだろうか。
「ああよかった。ちゃんと効いたのね」
うっすら聞こえる声は、とても安心している様子で。
「皆藤のやつに研究データを盗られて1年。苦汁も辛酸もなめて研究を続けてきたけれど、まさかこんな都合の良いことが起きるとは思わなかった」
冷えた彼女の声が、ぼんやりとした意識に浸透していく。
なんだ、どういうことなんだ。
「虹色のニュートン。これを公表できれば、世間に認められるわ。あの時逃した賞だってとることができる。皆藤のやつを、見返すことができる」
…………。
自分が理解したくない現状だけが、なぜかしっかりと頭のなかで理解できてしまう。
つまりは熱海さんは、皆藤氏にデータを盗まれていて。
……今は俺が、データを盗まれそうになっているということか。
「あいつが二色のニュートンの花言葉を才能とか言った日には、悔しくて涙が止まらなかった。それでも今は、私が上。あいつよりもより素晴らしいと、私が賞賛される時がやってくる」
俺はどうすることもできない。
体は動かないし、例え動いたとて何を言えって言うんだ。
むしろこの状況で、意識を失いそうになっていることが喜ばしくすらある。
怒涛の展開すぎて、俺には限界だ。
後は起きた時にどうにでもなって欲しい。
恋をした女性に騙される、か。
なんなのやら、全く。
「そうだわ。皆藤のやつを見返すのに、今のうちにこの花の花言葉でも考えておきましょうかね。うーん。あ、そうだ」
声が聞こえる。
もうすぐブラックアウトする俺の耳に、最後に一つだけ、確かに響いた。
「『熱望』とか、いいかもしれないわね」
彼女の言葉を聞いて俺は、
恋した女性と同じ考えになったなら、それもまた、ロマンスかも、な……。
そんなことを考えながら、意識は静かに途切れた。
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