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ショートショート「最後の取引」
後はもうタップするだけだった。
僕の寿命は誰か有意義に使ってくれる人に売る。
お金に困っているわけではない。
死にたくなったわけでもない。
ただ、誰かに寿命を譲りたかった。
これが正義かと聞かれれば返答に困る。
でも、相手はきっと喜んでくれるはずだ。
このフリマアプリはどんな物でも売れる。
そして、売った物は確実に相手の手元に届く。
だから、僕は残りの寿命を出品した。
僕はスマホからそっと手を離した。
これで取引は終わり。
正真正銘、最後の取引。
残りの寿命は相手の元に・・・。
僕は目を瞑った。
きっと、このまま寿命が・・・。
・・・終わるはずだった。
・・・僕は目を開く。
おかしい、寿命がまだ終わっていない。
僕は急いでスマホを覗いた。
アプリは相手からメッセージが来ていることを示していた。
僕はメッセージを開いた。
相手からのメッセージにこう書いてあった。
「あなたの寿命をありがたく頂こうと思っていました。でも、やめました。だって、あなたの寿命はまだこれからだから」
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