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『臨月ナース』
不思議な生き物たちの病院で先生と二人三脚で働いていたので、臨月になってもなかなか休みが取れない日が続く。絶対安静と先生は言うけれど、受付に立たないと病院業務は成り立たない。バイトを雇おうにもなかなか奇特なこの病院に来る人は少なく、今日も大きなお腹をこさえて、受付の前に座る。
この病院にやってくるお客さんは、よくテレビで見かける動物の輪郭を模している方もいれば、輪郭が朧気で、今にも空気に溶けてしまいそうな方もいる。私の小指ほどの大きさの方もいれば、病院の入口で突っかかる大きさの方もいる。先生はどんな方でも丁寧に診察をし、私は彼らから診察の対価を受け取る。それは世間で流通している高価だったり、見知らぬ木の実だったり、黄泉の国の鉱物だったり様々だけど、私はどんなものでも拒まず受け取る。正直診察に見合っている品かは判別できないけれど、先生も満足しているし、それで良しとする。
そうして満足して帰る後ろ姿を見送るのが私の仕事だ。たまに先生に頼まれて注射や診断の手伝いをするけれど、子供を授かってからは滅法に減ってしまった。
そんな日々が続くある日、彼らの中で奇妙な行動が流行り出したことに気付く。彼らは対価を支払い帰る間際に、何故か私の大きなお腹に触れて帰っていくのだ。それも例外なく、全員。各々の四肢を使い、労わるようにそれに触れ、満足そうに帰っていく。心無しか、対価も増えているように思う。
「頑張れって、彼らなりの応援じゃないのかな」
先生は笑う。どうやら半液体状のお客さんを相手にしたらしい。粘液で汚れた腕をタオルで拭いながら「みんなも心配してるんだよ」と言葉を継ぐ。
「心配してるなら、受付業務を代わって欲しいものですが」
「君以上に器用に受付をこなす子はいないからねえ」
そういうものだろうか。おへそ辺りに、丸く薄い粘着が付着したナース服を見て、ふうんと思う。ひとなですれば擽ったそうに腹の中で何かが蠢く。
診察の対価として授かったこの命が、一体何なのかは私は知らない。それでも祝福をされているのであれば、きっと良い命なのだろう。そう願って、やまない。
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