2.午後五時、討伐担当区域にて

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2.午後五時、討伐担当区域にて

 四年前に初めて怪物と対峙したのは、某警備会社の社員二名だったそうだ。彼らは夜間警備の最中に化け物と遭遇し、訳が分からない中健闘していたのだが、集まってきた奴らに太刀打ちできず命を落としてしまった。  しかし、その犠牲も無駄ではなかった。その様子を映した防犯カメラの映像を解析することで、彼らの弱点と退治方法を早期に発見することが出来たのだ。  怪物は太陽を嫌う。だから、日が出ている間に姿を現すことはない。  それが発覚してから、国民は日没後に外出することを禁じられた。怪物は建物の中には入ってこないことも分かっている。例え電気が点いていなかったとしても、室内にさえいれば安全は保たれる。コンビニエンスストアでさえも、日没以降は閉店するようになった。  夜間外出が唯一許されるのは、鷲澤ら警備会社の処理課にあたる人間だけだ。怪物を退治するのが仕事なのだから、当然とも言える。  四年前から一変した人々の生活に思いを馳せながら、鷲澤は日の暮れかかる住宅街を歩く。  ブランコとすべり台しかない寂れた公園に、濃紺の警備服の大男が佇んでいた。その相容れない風景に面食らう。 「あんたが兵藤さん? 今日から世話になる鷲澤です、宜しく」  軽く挨拶を済ませると、兵藤は感情を見せずに鷲澤を一瞥した。 「討伐実績最下位の鷲澤か」 「ハッキリ言われると心苦しいっすね。確かに戦闘はからっきしなので、文字通りのお荷物ですよ」  鷲澤は笑顔で、心にもないことをすらすらと述べていった。  人から言われて傷付くことでも、自分から口にすれば幾分か気分がマシになる。それ以上の追求を防げるし、自分の心構えもできる。自分の力不足にも、他人への嫉妬心にも苦しめられなくて済む。  これは、自分の身の程は弁えていますという意思表示。謂わば予防線だ。  兵藤が鷲澤に向けた視線には、軽蔑も落胆も感じられない。ただ、眉が微かに顰められている。 「今まで大きな怪我なく帰ってこられただけで十分だろ。死んだり戦闘不能になったら、それ以降は退治ができなくなる。だったら細く長く続けてたほうが、よっぽど世の中に貢献してるよ」  兵藤はそれっきり口を閉ざした。  鷲澤は目を丸くする。細く長くとか、大きな怪我なくとか、そんな無難な言葉が『相棒殺し』の口から飛び出たのが信じられなかった。  人命を踏みにじり実績を追い求める彼の人物像は、噂によって作り上げられた偽物だったのだろうか。鷲澤は戸惑いつつも、兵藤と日没を待った。
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