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兵藤は、背中にも目が付いているのではないかと疑うほどに反応が早い。少しの攻撃なら食らってもびくともせず、戦闘能力と身体能力の高さを伺わせる。その流れるような動きと霧散する怪物が視界に入ると、嫉妬よりも爽快感と期待が胸に湧き上がるのを感じた。
彼と一緒なら、もっと多くの敵を倒すことができるような気がする。
自分も、彼のような立ち回りができるのではないだろうか――。
……この高揚感は、まるで麻薬だ。危機感を麻痺させ、正常な判断力を失わせる。兵藤の歴代相棒は、この感情に支配されて身を滅ぼしていったのだと鷲澤は実感した。
浮き立つ心を抑えるため、鷲澤は探査能力をフル活用しながら怪物と対峙する。これ以上、敵が集まってくる様子はない。目の前の相手に集中し、一歩踏み込んで警棒を振るう。
残り数匹というところで、南東一キロ地点に異変が起きた。固まっていた敵の群れは四十にまで膨れ上がっていたのだが、突如不規則に分散して移動を始めたのだ。
それを兵藤に伝えつつ最後の一匹を始末すると、彼はあからさまに顔を顰めて移動の準備を始めた。
「他企業の奴らが引き際を見誤ったんだろう。今頃、緊急避難用のUVライトを設置して、撤退してることを信じたいけどな。鷲澤、他に敵は?」
「北と東に二匹ずつ。どっちも一キロほど離れてて、周辺に群れはいなさそうです」
「なるほど。奴らに気付かれて囲まれる前にずらかるぞ」
鷲澤も兵藤と同意見だった。これが処理課の他の社員だったら、大群の群れに突っ込むであろうことは想像に難くない。
人間の走る速度は、個人差はあるものの徒歩の四倍ほどらしい。つまりは怪物の移動速度の二倍だ。鷲澤も兵藤も大した傷がなかったことが幸いし、群れに気付かれずに素早く移動することができた。
途中で数匹の怪物に遭遇したが、物の数ではない。一振りで叩きのめし、中部警備保安サービスの建物内に滑り込む。
鷲澤の胸に安堵が広がっていく。それは兵藤も同じだったようで、精悍な顔を綻ばせていた。
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