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3.午後八時、中部警備保安サービスにて
「『相棒殺し』の相棒になって無事で済んだ奴は、お前が初めてだよ」
「その代わり、普段よりも実績は少ないでしょ。今日の俺の実績が十五だから、兵藤さんの実績は三十五くらいっすよね。そりゃ普通の人よりは大分多いけど、いつもは一人で五十超えてるんでしょ?」
「一日辺りの実績は、な。でもな、二人とも無事なんだから、また明日出勤したときに取り戻せば良いんだ。この調子で一週間順調にいけば、今までの実績なんて目じゃないくらいの成果を出せるさ。仮に実績が折半だったとしてもな」
兵藤は歯を見せて笑った。精悍な顔立ちから繰り出される無邪気な笑顔は、人を惚れ込ませるには十分なほどの魅力を持っていた。その笑顔がなかったとしても、鷲澤は既に兵藤の人柄を好ましく思っているのだが。
「……そんな条件、ありましたね。あれは撤回します。俺、今日初めて人並みの実績を出せたから必要ないですし。あと、兵藤さんはもっと残忍な人だと思ってたから、俺なんて一日で潰されると思ってたんすよ。だったら折半しとかないと損だなって思って」
兵藤は呆れたように笑った。
「残忍って……それはこっちの台詞だ。『寄生虫』なんて呼ばれてる上に、俺と組む条件に実績の折半を求めるんだから、俺を一人で戦わせるつもりかと思ってたんだぞ。それが思い違いで良かった。お前、確かに戦闘力が高いわけじゃないが、普通に戦えるじゃないか」
「そりゃ、兵藤さんが相当頼りになる人で、無茶もしなかったからです。……それって結局は、相棒が強い人じゃないと、大したパフォーマンスが発揮できないってことっすけど。俺が『寄生虫』なのは変わりない事実っすわ」
鷲澤は努めて明るい声で言い放つ。
彼は以前から、深追いすることによる負傷を恐れていた。自分の戦闘能力が然程でもないため、窮地に陥った相棒を助け出せる自信がなかった。また、仮に自分が危機に陥ったとして、相棒が助けてくれるかもしれないという希望的観測を抱くこともできなかった。鷲澤は今まで、自分のことも相方のことも信用したことがなかったのだ。
いつからか、先行する片割れを諫めて、大群に遭遇しないように逃げながら戦うのが定石になっていた。退路を確保することに固執した鷲澤の姿が、相方に戦闘を任せているように見えたとしても仕方がない。臆病者、寄生虫と呼ばれるのは当然のことだったのだ。
十五という人並みの実績を残せたのは、鷲澤の能力や実力が高くなったからではない。兵藤が頼りになる戦闘能力の高い人で、鷲澤の能力や判断を信じてくれたからだ。自分だけの力で為したことではない。
それなのに、兵藤は納得できないという表情で鷲澤を見つめている。
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