ぽたり

1/1
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

ぽたり

あなたが手渡してくれた、幾つもの小さな滴を ガラス瓶の中に入れては きつく栓をした。 それは混じり合うことなく、ひとつずつが光を帯びて ああ! なんて、きれいなんだろう。 あなたがそれをくれなくなってからは 躍起になって瓶を握りしめては 何度でも光にかざした。 底にヒビが入っているのも知らずに まだあの輝きがあると信じて もう、とっくになくなっていたんだよ。 それでも空っぽの瓶の中身を懸命に探していた。 だって、だって、あったんだよ。 確かに、ここに。 絶対に。 ガラス瓶は乾いていた。 陽光で七色に輝いていたものは 高鳴る胸のときめきは あの夢は、恍惚は、 なくなったんだ。 なくなっていたんだ。 心が落ちた。 それは、小さな砂袋のように。 歪んだ笑顔の頬に涙が一筋。 乾いたガラス瓶の中に ぽたり。 43db698b-54f3-4d3e-8aa3-3febaa91f9ca
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!