29人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
ぽたり
あなたが手渡してくれた、幾つもの小さな滴を
ガラス瓶の中に入れては
きつく栓をした。
それは混じり合うことなく、ひとつずつが光を帯びて
ああ! なんて、きれいなんだろう。
あなたがそれをくれなくなってからは
躍起になって瓶を握りしめては
何度でも光にかざした。
底にヒビが入っているのも知らずに
まだあの輝きがあると信じて
もう、とっくになくなっていたんだよ。
それでも空っぽの瓶の中身を懸命に探していた。
だって、だって、あったんだよ。
確かに、ここに。
絶対に。
ガラス瓶は乾いていた。
陽光で七色に輝いていたものは
高鳴る胸のときめきは
あの夢は、恍惚は、
なくなったんだ。
なくなっていたんだ。
心が落ちた。
それは、小さな砂袋のように。
歪んだ笑顔の頬に涙が一筋。
乾いたガラス瓶の中に
ぽたり。
最初のコメントを投稿しよう!