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【1日目 8月1日】
それから数日後の夕方。僕と哲也は祇園四条の『ホテルパークガーデン京都』のロビーに立って居る。
これから始まる3泊4日のバイトの為のチェックインを済まさなければいけない・・・
天井の高いロビーは3階までの吹き抜けになっている。壁面にはかなりの点数の絵画が飾られている。どれも西洋画の複製(レプリカ)と思われる。
「壮太、あんまりキョロキョロすんなよ」
「ああ、わかったよ」
「そないなら、フロントに行ってチェクインしよか」
「名前はなんて予約しているんだ?」
「俺らの名前をそのまま言えば、ほして部屋を用意してくれてるはずや」
「わかった」
「普通の客と一緒や、任しといて」
「了解」
哲也の言う通り、2人の名前で一室ツインで部屋が用意されていた。
哲也の話によるとチェクインをしたら、そのまま部屋で待機していれば後から連絡が来るそうだ。
今だ僕は半信半疑で不安と警戒心を拭えない。
部屋は8階だ。ルームキーを持って、まずはロビーの奥にあるエレベーターホールに向かう。
「哲也、壮太!」
背後で僕らの名前を呼ぶ声が掛かる。びっくりして振り向くと。
そこにはクラスメイトの浩二が立っている、それもホテルのユニホーム姿だ。
「浩二、どうしたんだよ。そないな挌好して」
「仕事だよ。夏休みの間、ここでバイトしてるんだ」
「そうなんだ」ふたりして声が揃う。
「大きな声じゃ言えへんけど、俺らもバイト」
「え、このホテルで働くのか?」
「いやいや違うよ、他のバイトでホテルに来てるんだよ」
「詳しい事はまた今度話すさ」
そこにタイミングよくエレベーターが来たので乗り込んだ。
「あいつ不思議そうな顔しとったな」
「でもびっくりしたよ」
「俺らの生活圏も狭いよなぁー」
「まったくだ」
部屋は思ってた以上に広く明るい、二人で使うには贅沢なスペースだ。
僕らのアパートとは比べものにならない。ベッドもバスも、それにトイレも全て立派だ。
二人して感心しながら歩き回っていると、そこへ誰かがドアベルを鳴らす音が部屋にに響いた。
哲也が入り口に向かいドアを開けて言葉を交わしている。哲也と共に見知らぬ男性が中に入って来た。多分クライアントだろう。年齢は40台前半位だろうか、スーツをきちっと着て爽やかな感じのする男性である。
「こんにちは、今回は色々と有難うございます。私は横川伸一と申します。
今回、君達にお仕事を依頼した調査会社の者です」
そう言うと名刺を出して渡された。
「今回はこのホテルのサービス及びお客様の利用状況などを調べてもらいます。そしてこちらの表にある項目に沿って報告書を作って下さい。多分1~2時間もあれば記入出来ることと思います。あともう一つこれとは別に、大事なミションがあります。それは君達のことをもう少し知ってから、夕食の時にでもお話しさせて頂きます」
横川さんはそこまで話すと。あとは小一時間の雑談をして部屋を後にした。
多分この雑談も、彼にしてみれば面接であったのであろう。
「どう思う、壮太」
「うん、感じのいい人みたいだけど、もう一つ仕事があると言ってたよな・・・」
「それがメインだな」
「僕らの事を信用出来てから話そう・・・という魂胆だな」
「そういう事だ」
「まず、夕食までにこの報告書をある程度作ってしまうか」
「OK」
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