2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
それから3時間後ホテルのレストランで横川さんと夕食を一緒にする事になる。
レストランはホテルの最上階の11階にある。三方に大きな窓があり京都の夜景が切り取られて見える。壁面には大きな風景画が掛けられている。
料理は全て京懐石だ。普段口にした事のない料理を食べてのんびりした時間を過ごしている。食後のデザートが運ばれて来た頃、横川さんが口を開き始めた。
「先程のお話の続きになりますが・・・」
一度まわりを見回して僕らの方に向き直る。僕と浩二は一瞬緊張が走り背筋を伸ばした。
「実は、こちらのホテルのオーナー様は非常に絵がお好きな方でして、また絵画コレクションも相当な数をお持ちなんです」
「道理であちらこちらに絵が飾れられている訳だ」
「これは皆オーナー様の趣味なんです。ホテル内に飾られているものはレプリカなんですが、本物の名画も随分所有されているんですよ」
「たいそうな趣味やなぁ」
「それでもう一つの仕事というのは、その名画コレクションに関わる事なんです」
「え!?」
「私共の調査では、彼のコレクションの中に、現在盗難中となっている名画、フェルメールの《合奏》という作品が紛れ込んでいるのではないかという情報を得ているのです。それでそこに関わる調査協力をお願いしたいのです。これはあくまで覆面調査なります。
実は、過去にも一度このホテルは、そのような盗難事件の捜査を受けた事がありまして、やはり民間としてはかなり大きな所蔵保管庫をお持ちですからね」
「その事件は解決したのですか?」
「その時は、ここからすぐ近くにある美術館からロートレックの作品が
盗まれたという事件です。結局、作品は他から出て来ましたので、こちらのホテルは無関係であることは証明できたのですが、犯人はわからず真相は今でも不明です」
「いずれにしても大変な仕事じゃないですか!」
「大丈夫です。作業としては至極簡単なものです。具体的な事は明日にでもお話ししましよう。」「ところで、調査表の方はご覧になりましたか」
「はい、大体の記入はすんだんですが」哲也が報告書を手渡す。
「それは早いですね」
「まだ調べきれておらん項目がありまして・・・」
「どこでしょうか」
今度は僕が説明をする。
「非常時の避難導線と、その導線が通常時に通行可能な状態か」
「なるほど」
「もう一つが、業務用の搬入経路が、お客様の目にふれないように設置されているか・・・」
「では、それらは明日の昼までに確認して下さい」
「わかりました」
「それだけ時間を頂ければ余裕どす」
最初のコメントを投稿しよう!