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 大学生ーーというのは暇なのか。朝からスマホが連続で震えては間が開き、かと思えばまた連続で震え出す。  仕事が一区切りついたところでコンビニにトラックを停め、飲み物を買ってスマホを確認する。  送られてきていたメッセージはどれも他愛のないもので、無視ーーというのも居心地が悪くとりあえず適当なスタンプを送っておいた。  社会人といえば聞こえはいいかもしれないが、安月給の自販機補充員。数年後大学を卒業すれば、こんな俺を軽々と飛び越えていくだろう。 『いっそ養われるか……?』  自嘲のつもりの独り言はシャレにならないほど切れ味が鋭く、帽子を被り直して振り払い、シートベルトを締め直した。  大人びているが相手は子どもだ。恋だの愛だのに夢を見て、ただ年上という存在を眩しいものだと思い込んでいるに過ぎない。浮かれるなら浮かれさせておけばいい。本気で向き合う必要なんてないだろう。だって相手はーー  同じ男だーー。  ぐるりと決められたコースを回り終えたら、ステーションにトラックを停める。  記録を書いたバインダーを事務に提出すれば仕事は終わりだ。 「芥川」  後ろから声を掛けられ振り向くと、先輩が缶コーヒーを放り投げてくる。 「おあ」  何とかそれをキャッチすると、笑いながら喫煙所を指し示された。 「お前、カノジョと別れたんだって?」 「あー……まぁ、まぁ」  言葉を濁して冷たいコーヒーを啜る俺と、煙草に火を点ける先輩。 「だからさっさとプロポーズしろって言っただろ」 「いやー……厳しいっすよ」  先輩はこんな安月給でも結婚して子どもが二人いる。奥さんは子どもを保育園に預けて正社員で仕事に復帰し、フルタイムで働いているらしい。  元、となってしまったカノジョは事あるごとに専業主婦を希望していて、俺の給料ではそれを叶えるのは厳しいを通り越して不可能だった。 「お疲れ様でした~」  こつこつと女性らしい足音と共ににこやかな笑みを浮かべ、小さく頭を下げて前を通り過ぎて行ったのは、事務の井口さん。  小柄で可愛いらしい事務所の花的な存在で、皆ステーションに戻って来ると井口さんに記録を渡すべくタイミングを伺い合っている。 「可愛いよなぁ井口さん」 「そっすね」 「カレシいないってよ」  同じように煙草とコーヒーを口に運び、そして顔を見合わせる。  そして先輩が先にニヤっと口元を上げた。 「いやいや……無理に決まってるじゃないっすか……」 「ほぉー。好みじゃないとは言わないんだな?」 「何言ってんすか……」    ニヤニヤと笑みを浮かべながら短くなった煙草を灰皿に押し付けつつ、先輩はぐいっと俺を腕を引く。 「井口さんな、俺に「どうやったら芥川さんに話しかけられますかね?」って聞いてきたぞ」 「は?」  嘘っしょ?と口を開ける俺の背を叩き、肩に腕を回して来る。 「いけるぞ。今度メシ誘え」 「い、やぁ……だって、えー……俺ぇ?」  半信半疑にたじろぐ俺に、先輩は何度も頷きながら体重を掛けて来る。 「井口さんならお前の給料も分かってるしな、その上で……って事は、あとはお前次第だぞ。女の子に恥かかせんな」  そう言ってもう一度俺の背を叩き、先輩は先に帰って行った。  いやいや……。とがしがしと掻いた頭から饐えた汗の匂いがして、やっぱありえねぇわ。と空き缶をゴミ箱に入れて事務所を後にした。
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