幹と美樹

14/45
前へ
/45ページ
次へ
「おばあちゃん、僕、自分の美樹って名前、嫌いじゃないよ」  僕の名前の名付け親は、おばあちゃんだった。おばあちゃんは、桜が大好きで、昔から春になるとよく日本全国の桜の名所を旅して回っていた。美しい樹に色づく美しい花たち。孫もこんな風に美しく逞しく、誰かを魅了する人間になってほしいと、そういう由来があるんだと、よく幼い僕に説明していた。 「素敵な名前だなぁって、思うよ」  正直僕は、まだこの頃自分の名前を完全に受け入れられたわけではなかった。やはり中学でのいじめられた経験が、僕の心にずっと引っかかっている。でも、名前を丁寧に書くうちに『美樹』という漢字の並びってなかなか悪くないよな、とは思えるようになってきた。  だから、自分の名前が大好きだ、とは言えなくても、いい名前だとは伝えたかった。おばあちゃんは、名前が原因で僕が中学の頃いじめられていたことを、知っていたから。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加