幹と美樹

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「その日何があったのか、その出来事に対して自分はどう感じたのか、それを、言葉にしてまとめるんです」  ――なるほど合点! とは納得できなかったし、およそ僕の悩みに対する答えとは言い難かったけれど、とりあえずその日の帰りに文房具屋に寄って、日記帳を購入した。  それから毎日日記を書いた。そこで初めて気がついた。自分の感情を言葉に――文字にすることは、すごく難しいんだ、と。  嬉しい、楽しい、悲しい、苦しい――生きていれば、単純な喜怒哀楽だけじゃない。もっと複雑に絡み合って、ごちゃまぜになった色んな想いが生まれる。それらを一つの言葉として表すのは、容易なことではなかった。僕は十八歳にして初めて言葉を操る難しさを思い知った。語彙力もなければ、読解力も乏しかった僕は、毎日寝る前に悪戦苦闘しながら日記を書いた。
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