幹と美樹

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***   ――あっという間に卒業式が来た。  記念写真を撮ったり、友人と卒業アルバムにコメントを書き込んだり、とにかく慌ただしかった。自分の偏差値に合わせて選んだ高校だったけど、僕はこの学校に来てよかった、と素直に感動できた。  そう思えるようになったきっかけを作ってくれた人物に、お礼の挨拶をしに、僕は国語準備室に向かった。  ノックして入ったが、部屋には誰もいなかった。さすがに卒業式という一大行事の日は、彼女も含め、みんな出払っているのかもしれない。 「――井上くん?」  ――と、背後から低い声に、僕は肩をびくっとゆらした。僕の真後ろに、真っ黒なスーツを着た幹先生が立っていた。 「何か用ですか?」  一年前と同じように、幹先生は僕に問いかけた。卒業おめでとうすら言わない。それがいかにも彼女らしくて、僕は胸がくすぐったくなった。
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