幹と美樹

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 僕と幹先生は日記の話をした以来、こうして一対一で話した記憶はない。名前の話、日記の話――と、続いて交流らしい交流は今日が三度目だ。この淡白なペースが、僕と彼女にとってのいい距離感なのかもしれない。 「幹先生、色々とありがとうござました」  僕はぺこりと頭を下げた。 「あの、それで……よかったら住所を教えてもらえませんか?」  ――年賀状を出したいんです、と言った。  卒業しても、学校という交流の場がなくても、僕は幹先生と繋がっていたかった。好きな女の子には恥ずかしくてまともにアプローチはできないけど、幹先生のことになると、僕は不思議とフットワークが軽くなる。  教師と生徒だから、とか、個人情報漏洩とか、そういう理由で却下される可能性もあったが、幹先生は嫌がる様子は一切なく、僕に住所をメモした紙を渡してくれた。小さな紙に書かれた几帳面で細い文字をじっと見つめる。卒業証書より、僕はこの紙切れの方が何万倍も嬉しかった。
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